2012年5月2日水曜日

左巻健男先生、大いに語る!「知的な面白さをもったもの以外は教えるな。」:学研科学創造研究所


理科教育、科学・技術教育がご専門の同志社女子大学教授・左巻先生が、科学創造研究所客員研究員に就任したことを機に、今後の抱負や日本の科学教育をテーマに湯本所長と対談していただきました。

子供時代について

湯本:まず最初に、先生の子ども時代のお話からお聞きしたいと思います。

左巻:子ども時代はですね、どうだったでしょうか。まあ、父母は私が長男なので、結構期待していたようで、小学校入学前に漢字や数字をいろいろと教え込もうとしたみたいですね。1から100まで覚えるとか・・・。でも、全然ダメだったようで、それで親は小学校入学前にすでにあきらめてしまったみたいです(笑)。学校に入っても勉強についていけませんでしたね。とにかく、自然の中で遊ぶのが楽しくて、自然が先生でした。

湯本:私は子どものころから物作りが好きだったですね。あまり物のない時代でもあったんで、自分でオモチャなんかを作っていました。今も同じことをしていますね(笑)。子ども時代の経験は大きいと思います。

左巻:勉強はあまりできなかったんですが、あるとき「キミは理科ができるね」って、先生にほめられたことがあるんですよ。そのときはうれしかったですね。それがきっかけになって、図書室で理科の本を読みはじめましたんです。

湯本:私も先生と同じような経験がありますね。6年生の担任が理科の専科の先生だったんですが、自由研究かなにかで「磁石の反発力を使ったベット」というのを考案したんです。それをその先生に見せたら、予想に反してほめられましてね、いろいろとアドバイスをしてくれた。とてもうれしかった記憶があります。

左巻:中学・高校になっても、勉強はパッとしなかったんですが、理科だけはがんばらなきゃ、という気持ちがありました。小学校のときほめられた経験からかも知れませんが・・・。

高校は工業高校に進学しました。高校2年のとき「さて、これから何をしていこうか」と考えたんです。手先が無器用で、人づきあいも悪かったので、これから努力してできることといったら、勉強して頭が良くなることだと思ったのですね(笑)。そのとき、科学者になろうと思いました。でも、やっとのことで入ったのは大学の教育学部で、それから教師になろうと思いはじめたわけです。


紀元前

左巻健男(さまき たけお)先生プロフィール

●同志社女子大学教授
●最終学歴
1975年 東京学芸大学大学院 教育学研究科 理科教育専攻 修了
●取得学位
教育学修士
●所属学会
日本カリキュラム学会
日本子ども学会(設立賛同人)
●専門分野
理科教育 科学・技術教育 環境教育
●現在の教育課題
小学校・中学校・高等学校における理科カリキュラムの内容と編成、理科教育の内容と方法、子どもと地球環境、自然環境

影響を受けた人

湯本:左巻先生は、影響を受けた人はいらっしゃいますか?

左巻:大学のとき、ゼミで一緒だった滝川洋二くん(現在は国際基督教大学高等学校 教諭・ガリレオ工房 代表)ですね。

僕は大学院修士課程を修了してすぐ中学の先生になったのですが、彼は博士課程に進みました。彼は修士課程の頃は理科教育にあまり興味関心をもっていませんでしたが、博士課程では理科教育を専攻するようになっていました。お互いに若かったこともあり、日本の理科教育をなんとかしようという志で、いろいろと一緒に取り組みました。若いときに一緒にやったので、一番影響を受けましたね。逆に、彼も私に影響を受けたんじゃないかな。お互いに影響を受けたと思いますよ。

湯本:そうですか。若いころ切磋琢磨されたということですね。

私はやはりエジソンですね。小学校3年のころ読んだ伝記ですっかりエジソンに夢中になりましてね、それからずっとエジソンです。

左巻:それはいいですね。最近の子どもは伝記を読まないですね。伝記っていうと、美しく作られてしまっている面もありますが、単に頭がいいとか偉いとかではなくて、いろいろな失敗や努力や工夫があって、科学の研究をするようになったということを知ってもらいたいです。

湯本:エジソンの場合も、子どものころ出来の悪かった子が、大人になって偉大な人になったということが、ストーリー的に私自身すごく気に入ったんでしょう。「こんなダメな子でも、あんなにすごい人になれるんだ」と思いましたね。

実験について

湯本:それでは、少し実験についてお聞きしたいのですが。


APAP引用を記述する方法

左巻:ぼくは工業高校(工業化学科)から大学・大学院まで、ずっと実験をやっていましたし、教師になっても、子どもたちと一緒に実験をやってきました。

カルメ焼きっていうお菓子がありますよね? 若いころ教材としてあれを作ろうと思ってやり始めたんですが、これがなかなかうまくいかない。毎日毎日、お玉に砂糖と水を入れてかきまぜてました。いつ砂糖を熱するのをやめて重曹を入れたらいいのか、いろいろとタイミングを変えてやっているうちに、ようやく温度がポイントだということがわかってきたんです。そこまでくるのに1年半くらいかかったかな。

今の中学の理科の教科書は5種類あるんですが、すべてカルメ焼きの作り方は私の考案した方法を使っています。私の名前はのってませんけどね(笑)。

(くわしくはこちら

あと「ダイヤモンドが燃えると二酸化炭素になる」という話はよく聞きますね。

湯本:ええ。本にもそう書いてありますね。私はやったことはないですが・・・。

左巻:そうなんです。ぼくもいろいろな人に聞いたんですが、実際にやった人はいない。「それならぼくがやってやろう」と考えまして。しかし、これが簡単ではありませんでした。

ダイヤモンドの原石を買ってきて、強力なバーナーであぶっても燃えないんです。いろいろ試して、やっと考案したのが、細い石英管の中にダイヤモンドの原石を入れて、酸素を通しながらバーナーで熱して発火させるという方法です。すると燃え出すんです。二酸化炭素ができたことは、排出気体を石灰水に入れて確認します。確かに、ダイヤモンドはきれいに燃えてしまって、二酸化炭素になりました。

(くわしくはこちら

湯本:私は昔の本のスケッチで、ガラスの容器の中にダイヤモンドを入れて、大きなレンズで太陽光を集光している絵を見たことがあります。

左巻:それは相当大きなレンズですね。

湯本:ええ、スケッチでも大きく描いてありましたね。これくらいだったでしょうか(両手を40~50㎝くらい広げる)。

左巻:いや、そんなものではないでしょう。人間よりももっと大きいレンズだったかもしれませんよ。

湯本:そうですか。

左巻:ダイヤモンドは空気中だとなかなか燃えないんです。1,000℃くらいかな。でも、酸素中だと800~900℃で燃え出します。


平和部隊はどこから来たのか?

湯本:今お話を聞いてなるほどな、と思ったんですが、結構そういう話っていうのは多くてですね。たとえば味覚の話で、舌の場所で甘いとか苦いとか決まっているという話はよく図鑑などに載っていますが、これが実は間違っていたという話があります。元は100年以上前のオランダの書物らしいのですが、これがずっと、孫引きというんですか、確かめられもせずに、載せられていたらしい。嘘を載せていたということですね。

左巻:だから出版社の人は注意しないといけない(笑)。われわれが本を書く場合も気をつけないといけないですね。

湯本:今先生のお話を聞いていて、ちょっとやそっとじゃあきらめない、1年かかろうと2年かかろうと、とことんやるという・・・。

左巻:それはありますね。他の人がやっていないこととか、うまくいっていないこととか。内容的にもシンプルなものなら、どこかきっかけが見つかれば、うまくいくことがある。

湯本:私たちも自分でやってみるということは大切にしていますね。「手で考える」ということですね。やっぱり、自分でやれば、楽しいですね。頭の中で考えているだけでは、なかなか思いつかないですよね。なかなかうまくいかないこともありますが、オリジナルの実験を思いついたときはうれしいですよ。

私も実は、カルメ焼きはずいぶんやったんですが、やはり最初はうまくいかなかったですね(笑)先生のおっしゃっていたように、温度管理が大切だということですね。

これから取り組みたいこと

左巻:私は理科教育と環境教育の自称、専門家なんですよ。今の日本の教育というのがどうなのかな、という疑問をいっぱいもっているわけです。手を動かして頭も働かして面白いぞということを学校教育の現場でもやらなければいけない。それが今すごく弱い。面白くなくても、教えればいいんだ、ということになってしまっている。そうじゃなくて、知的な面白さをもったもの以外は教えるなということをいいたいんです。

つまんないことは教えるな。そういう学んだ子どもたちが「知ってよかった」と思うようなことを教えようという教育をどうやったら作れるのかを考えている。

湯本:私は教育者ではありませんが。年間30回くらい実験授業というのを学校でやっているんですよ。そうすると、感想で「先生の授業を聞いて理科が好きになった」とか書いてきてくれるわけです。


今の子どもたちは実験をやる機会が少ない。だから、なるべく子どもにやってもらうようにしている。体験した子は面白さがわかる。逆に、これまでそういう体験をしてこなかったのかな、という気もする。その意味で、今の理科教育に不安を覚えます。もっと理科の時間というのは実験とか観察をやるようにしないといけないと思いますね。

左巻:まず、教える内容も大切ですよね。知的に意味のあることを教えるということと、それと結びついた実験・観察が必要です。小・中と進むにしたがって実験とかなくなっていって、しかも知的な面白さも、なにが面白いかというと受験問題が解けるから面白いとかね、それもある意味では面白いんですけどね、それだけではなくて、その科学的内容の"意味"が面白いというようにならないといけない。そうなるように、教育を変えていかなければいけないと考えているんです。それで今いろいろと取り組みをしている。

湯本:できればご一緒に、未来の理科教育を変えるようなカリキュラムができたらいいと思っています。

左巻:そうですね、ですから科学創研は、ほんとに小さい子から大人までも、科学って面白いぞという、本当の意味の面白さ、単に「火花が飛ぶから面白い」とかじゃなくて・・・。

湯本:知的な刺激ですね

左巻:そうそう。ですから科学創研の仕事として、知的な刺激をもっと多くの人に広めていかなければいけない。

湯本:ぜひ、お力を貸してください。より多くの人に、科学の楽しさをもっと広めていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

対談を終えて

ちょうど今、左巻先生と対談を終えたところですが、先生のお話がすーっと入ってきたのが率直な感想ですね。自分の考えていることやめざしていることと同じだな、というか共通性を感じましたね。心がワクワクしました。毎回このようなワクワク感が味わえるのなら、これからもこのような対談をいろいろな方とやっていきたいと思っています。(科学創造研究所長 湯本博文)



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