作成:レイム・クロウ(SPARCシニア・コンサルタント)
日本語訳:栗山 正光(常磐大学人間科学部)
翻訳協力:中井えり子(山梨大学附属図書館)
原文:"The Case for Institutional Repositories: A SPARC Position Paper "
要旨
機関リポジトリ――この声明書では、単独あるいは複数の大学コミュニティの知的生産物を入手し保存する電子的コレクションを意味するものとして用いる――は、学術機関が直面している二つの戦略的問題に有力な対応策を提供する。そうしたリポジトリは、
- 学術コミュニケーションのシステム改革における重要な構成要素を提供する――その構成要素とは研究へのアクセスを拡大し、学術機関による学問のコントロールを再主張し、競争を増やして雑誌の独占力を減じ、経済的な救済をもたらし、そして研究機関とそれを支援する図書館の関連性を高めるものである。また、
- 大学の質に関する具体的な指標として役立ち、その研究活動の科学的、社会的そして経済的な関与を示し、研究機関の認知度、地位及び公共的な価値を増す可能性を持つ。
要するに、機関リポジトリは既存の学術雑誌システムの体制上の問題への戦略的な対応策を提供する。しかもその対応策は即座に適用できるのであって、大学およびその教員にとっての短期的な利益も継続的な利益も獲得しつつ、長期的には学術コミュニケーションの前向きな変革を推進するのである。
この声明書では機関リポジトリを以下の二つの補完的な観点から、戦略的に検証する。1)学術機関の構成員の知的資産を保存し、運用しようと努める、基礎的研究成果の生産者としての学術機関の責任の自然な拡張として、及び2)学術コミュニケーションの進化しつつある構造の、一つの重要な構成要素となる可能性をもつものして。われわれはこの構造における機関リポジトリの役割を説明し、その過程と結果において主要な利害関係者が受ける影響を探る。
序論
基礎的研究成果の生産者として、学術機関は教員、学生、職員の知的生産物を入手し保存することに関心を持つであろう、ということが当然予想される。伝統的に学術出版社(取りまとめ役そして配布役として)および機関図書館(管理役および保存� �として)は学術コミュニケーションと機関の知的遺産の保存――散漫で間接的にではあるが――を促進することに相補的な役割を果たしてきた。しかしながら、過去数十年の間に、この共生的な出版社と図書館マーケットの関係を支える経済、市場、そして技術的基盤は変化し始めた。いくつかの同時発生的な要素が学術雑誌出版の構造に変更を迫っている。- 技術変化が、電子出版技術とユビキタス・ネットワーキングの形で、研究へのより幅広いアクセスとより安定したディジタル・プレゼンテーションへの需要を高めた。
- 研究の全体量、とりわけ自然科学における研究量の著しい増加が印刷出版モデルの容量を超えるものとなってしまい、印刷出版に内在する待ち時間への利用者の不満を募らせた。
- 従来の印刷体雑誌と電子ジャーナルの価格・市場モデルに関する、特に図書館員側の、不満の増大――このモデルは、急騰する価格と相対的に伸びない図書館予算の時代にあって、だんだん適切でなくなり維持するのが難しくなってきている。
- 電子的な学術研究資料の保存を誰が取り扱うのかという不安の増大。
研究者、図書館員そして出版社は、学術コミュニケーションに対する電子メディアの衝撃を理解するのに密接な関わりのあるさまざまな問題――技術的、組織的、文化的、経済的、そして法的な――に対して相当の考慮をしてきた。このSPARC声明書は、機関リポジトリ――ある機関コミュニティの知的生産物を保存し、アクセスを提供するディジタル・コレクション――が学術コミュニケーションの進化しつつあるモデルに対して持ち得る影響、その過程における現在の利害関係者にとっての意味合い、そしてスポンサーとなる機関にもたらす潜在的な利益といったものを探る。特に、この文書は、
- 学術コミュニケーションの進化しつつある構造における、また別の選択肢であるリポジトリ・モデルと比較して、機関ディジタル・リポジトリの潜在的な役割を説明する。
そして - 機関リポジトリが学術コミュニケーション・プロセスの主要な利害関係者に与える影響を――研究者、大学及びその図書館、そして出版社に重点を置いて――探る。
機関リポジトリの根拠
機関リポジトリを実現しようとする総合大学や単科大学のための根拠は二つの相互に関連する提案に存する。一つは幅広い、全機関にまたがる努力を支援するもので、もう一つはリポジトリを実現するおののの機関に直接かつ即座の利益を提供するものである。新しい学術出版のパラダイム
機関リポジトリは、ある機関の知的財産を集中し、保存し、アクセスできるようにする一方で、同時に、学術出版の新しい非集中型モデルの基盤を提供する、分散型の、相互運用可能なリポジトリのグローバル・システムの一部を形成することになろう。後で議論するように、このモデルは学術コミュニケーションの主要な諸機能を分解し、現在の学術雑誌出版を特徴付けている垂直統合的な出版モデルによってこれまで覆い隠されていた市場効率を実現する可能性を示している。学術出版モデルの構造を変えることは単純でも即座にできることでもないだろう。このシステムにおいて地位が確定している参加者――教員、図書館員、出版社――すべてが高い金を賭けることになるし、伝統的な出版パラダイムの惰性は途方もなく強力である。短期的には、大きな学術雑誌出版社は現状を維持する力と誘因の両方を持っている。彼らが支配する有名雑誌は、大学での昇進の構造そのものと一体になっているように見える。しかしながら、電子出版とネットワーク技術が、不満の度を高めている図書館市場――そして著者たち自身――により利用され、今や加速度的ペースでこの出版モデルに根本的な変化をもたらそうとしている。そして新しいコミュニケーションのパラダイムは、とりわけ研究者たち自身によって� ��築されるとき、打ち勝ちがたいように見える出版社の優位を比較的短い時間で崩すことができる。 4
機関の可視性と名声
機関リポジトリは、大学の集団的知的財産を入手し、保存し、配布することによって、機関の学問の質を示す重要な指標として役立つ。学術コミュニケーションの現在のシステムの下では、多くの知的成果と機関の知的所有権の価値が何千もの学術雑誌の間に拡散してしまっている。教員がこうした雑誌に研究を発表することは明らかに所属大学に不利に働くのに対して、機関リポジトリは大学の研究者によって創り出された知的生産物を集積し、その科学的、社会的、財政的価値を示すのを容易にする。こうして、機関リポジトリは機関の生産性と名声を測定する既存の尺度を補完するのである。この可視性の増加が高品質の学問を反映するところでは、こうした価値を示すことが、ある程度は機関の状態や評判から導き出される資金� ��供――公的私的両方からの――を含めて、具体的な利益へと変わり得るのである。学術コミュニケーションの現在のシステムは、ほとんどの学術研究の読者や入手可能性を広げるよりもむしろ制限している(一方でその生産機関をあいまいにもしている)。繰り返される雑誌価格引き上げとその結果としての予約購読中止は、さらに読者を減少させる。こうした文脈において、機関リポジトリのような代替学術出版モデルの役割は、出版社の独占を打ち破り、大学の知的成果をより認識させる上において、ますます明白になってきている。5 さらに、機関リポジトリはこの機能を個々のキャンパスで実現することもできるし、共同プロジェクトとして行うこともできるのである。
解体された学術出版モデル
学術コミュニケーションは四つの重要な構成要素を含むものとして説明されてきた。- 登録――あるアイディア、概念、あるいは研究成果の知的優先権を確定する。
- 認定――研究の質および/あるいは主張された発見の価値を認定する。
- 報知――研究成果の伝達とアクセス可能性を確保し、研究者たちが新しい研究成果を認識できるような手段を提供する。
- アーカイビング――将来の利用に備えて知的遺産を保存する。 6
われわれは先に機関リポジトリが学術コミュニケーションの発展的再構築に意義深い役割を果たし得ると示唆した。今度は進化する出版モデルとその内部における機関リポジトリ(および補完的ディジタル・リポジトリ)の潜在的役割を探ることとしよう。この議論は、図書館員、教員、管理職、学生、出版社、および研究のスポンサーを含むさまざまな利害関係者に機関リポジトリが及ぼすであろう影響の検証に脈絡を提供するものとなろう。
伝統的な印刷体雑誌の出版は――本質的に印刷出版の類似物である電子出版モデル同様――これら四つの構成要素を一つの出版モデルに統合している。さらに、これらの構成要素自身が学術出版の価値の連鎖の複数の要素を含む。7 これら出版の要素――製作、編集過程、配布を含む――は、既存のシステム下における学術雑誌のコストに重大な影響を与える。この垂直的な統合はいくつかの意味合いを持つ。
第一に、この併合はおのおのの構成要素に要求される直接的労働のほとんどと間接経費の多くが学術機関から引き出されているという事実を覆い隠しがちで、しかも最終的に学術雑誌購読料金というコストを負担するのはその学術機関なのである。大学の研究者はオリジナルな研究成果自体を生産する。大学の編集委員と査読者は研究成果を選定し、その質と優先権を評価する。大学図書館は学術雑誌を受入処理し、収蔵し、利用者に提供する。そして図書館の資源により保存が果たされている。――すべて雑誌出版社自身には、ほとんど、あるいはまったく直接的なコストがかかっていない。8 (表1参照。)
この統合的出版モデルの第二の、そして現在の分析にとりわけ密接な関わりがある意味合いは、学術出版の価値の連鎖の構成要素どれ一つを取ってみても、費用効率の向上が雑誌価格の値下げにつながらないことである。出版の連鎖における個々の機能――それぞれ生産、スケール、あるいは範囲の経済性が異なる――をひとまとめにすることは、そのおのおのの市場効率をうやむやにしてしまう。このような垂直的に統合された価値の連鎖を解体し、複数のビジネスに断片化することが、出版社によって付加された別個の価値をより明らかにかつ分離可能にし、システムに内在する非効率を排除するのに役立つのである。9
歴史的には、たとえば、出版社の学術出版の価値の連鎖への貢献は、配布部分に集中していた。写植、印刷、マーケティング、そして受注から発送に至るまでの一連の作業は、著者や図書館が喜んで出版社に委ねる専門的で費用のかかる仕事だった。電子出版とネットワークによる配布技術の進歩とともに、印刷による製作と配布の相対的価値は下落した。それでもほとんどの出版社は、この連鎖の中での地位の低下がもたらす収入や利益の相応の減少を受け入れるのを嫌がっている。従って、多くの出版社は価格を維持するため、プリント版と電子版のセットや主題横断的包括契約のような、現実的あるいは人工的な付加価値プログラムで応じて来たのである。10
電子出版技術と拡大した世界的ネットワークは――科学研究の量の増大と機能障害を起こしている経済モデルへの満足度の低下と相まって――機能的にも経済的にも、そのさまざまな構成要素が切り離されるのを許すことにより、学術出版の基本的構造を変化させている。諸機能が分解され、別々に動き始めるとき、そのおのおのがより効率的また競争的に動くことができる。これによって、登録、認定、報知、およびアーカイビングといった機能のさまざまな側面に責任を持つ、協調分散型エージェントのシステムを統合する一つの構造を生み出すことができる。11 後に見るように、機関リポジトリはこの予想される構造において重要な役割を果たす可能性を持っているのである。
表1:伝統的な学術雑誌システムにおける学術コミュニケーションの機能機能 | プロセス | 関与者 | プロセス・スポンサー |
登録 | 紙(あるいは電子)による雑誌への投稿 | 学界の著者―研究者 | 出版社 |
認定 | 査読 | 学界の査読者 | 出版社 |
報知 | 図書館の雑誌選定と支援 | 図書館員 出版社 | 学術機関 出版社 |
アーカイビング | 永続的アクセス | 図書館員 | 学術機関 |
表2:新しい非集中型モデルにおける学術コミュニケーションの機能
機能 | プロセス | 関与者 | プロセス・スポンサー |
登録 | 電子論文のリポジトリへの投稿 | 学界の著者―研究者 | リポジトリのスポンサー |
認定 | 査読 連帯的認定 オンラインでの反応 | 学界の査読者 学界の査読者 学界の反応者 | オーバーレイ・ジャーナル 学部・学科 リポジトリのスポンサー |
報知 | 相互運用可能なオープン・リポジトリと支援サービス | 図書館員 | 学術機関 職業団体 サード・パーティのプロバイダ |
アーカイビング | 永続的アクセス | 図書館員 | 学術機関 |
非集中型出版モデルにおける機関リポジトリ
この非集中型出版モデルがどのように発展してきたかを振り返ることは、機関リポジトリがそうした構造の中で果たすであろう役割と、諸変化が主要な利害関係者にもたらすかもしれない衝撃とをより完全に吟味するのに役立つだろう。この運動は未来についての空論ではない。以下に述べる機能的構成要素の多くが既に実際に存在しており、これらの構成要素が増えるにつれ、このモデルもより豊かでより堅固なものになるだろう。システムに燃料を供給する、基盤となる情報内容リポジトリにおける臨界量が、この新しいモデルの最も重要な単一の要素である。再構成された学術コミュニケーション構造がこの新しいシステムの利点をフルに生かす転回点に達するためには、機関リポジトリが欠かせないことが判明するだろう。
この非集中型モデルを実現するための基礎は、Van de Sompelら12が主張するところの、情報内容とサービス要素との論理的な分離である。この分離が分散したオープンなアクセスの情報内容リポジトリを可能にするのであって、そうしたリポジトリは多様なサービス業者により別個に実現される付加価値サービスとは独立して維持されるのである。一度学術出版のこうした要素が論理的に分離されれば、登録、認定、報知といった現在の出版モデルでは出版社によって統制されている機能をどんな組織でも、十分な知的名声、組織的信用、そして市場的位置さえあれば、引き受けることができるようになるのである。
情報内容層
情報内容層では、著者、著者の代理(たとえば学部、利用者コミュニティ、学会など)、そして機関が学術研究やその他の知的生産物を一つまたはそれ以上の情報内容リポジトリに寄託する。機関リポジトリは情報内容アーカイブの一タイプを表すに過ぎず、グローバルな非集中、分散型リポジトリ・システムの一部を形成する。こうしたシステムはいくつもの利点を提供する。
- 相互運用可能なリポジトリは、研究者がリポジトリのタイプを越えてシームレスに検索できるようにし、学際的な研究や発見を容易にする。こうした複合領域的アプローチが自然科学、社会科学、人文科学において増加傾向にあるため、これはますます価値を持つようになっている。
- 複数のリポジトリが示す広大でグローバルな異質のデータの集合体は、おのおののデータセットに固有のディテールや特徴を取り扱うのに最もよく準備のできているローカルな情報内容管理者たちが管理することができる(たとえば情報内容にふさわしい詳細なメタデータと共に)。
- 機関リポジトリは、他の自館保存リポジトリと共に、分散型の相互運用可能な保存システムを創り出す。ディジタル・アーカイブの最良の実践例は、さまざまな場所やフォーマットによる、複数のミラーおよび分散型リポジトリが健全な保存戦略に寄与すると示唆している。
相互運用性は永続的な名前づけ、標準化されたメタデータのフォーマット、そしてメタデータ回収プロトコルを含む。メタデータはリポジトリに蓄積されたディジタルデータの性質(情報内容、構造そしてアクセス権制御を含む)を記述する。メタデータ回収プロトコルは、分散したいくつものリポジトリからメタデータを集め、まとめられたメタデータに対して検索をかけてドキュメントを同定し、最終的には拾い出すという第三者のサービスを可能にする。こうしたメカニズムは規則に従いさえすればどんなタイプの電子図書館にも適用され、ディジタル研究資料の世界的なネットワークを創り出すのである。13
相互運用性を容易にすることによって、オープン・アーカイブ運動は伝統的な学術出版モデルの解体を加速し、再構成された出版体系内部の機関リポジトリの可能性を増大させた。この運動はオープン・アーカイブズ・イニシアティブ(OAI)を産み出したが、これは情報内容の配布を容易にするため相互運用性の解決を発展・促進させるために設立された。14 これらの解決法は、データ提供者(機関リポジトリ、特定領域専門のアーカイブ、など)をサービス提供者(メタデータ回収、検索、その他の付加価値アクセス・ツール)から分離する出版モデルの上に築かれている。OAIはディジタルリポジトリのタイプ(機関、特定領域専門、商用、等)や情報内容に無関係に相互運用性を支援するメタデータ回収プロトコルを定めた。
"情報化社会とは何か"
こうした多様なディジタル・リポジトリが、いくつかは学術出版の経済的モデルに対する圧力への対応策として、あるいは学者や科学者が自分達の知的生産物へのコントロールを取り戻そうとしたいくつかの領域においては学術コミュニケーションの自然な進化の結果として、過去20年間に出現した。多くの場合、これら代替出版モデルが示しているのは、学者たち自身の側に、自分達の研究を広める手段として、電子出版技術やインターネットを応用することにますます関心が高まっているということである。これら相補的なイニシアティブのうちの二つ――著者の「セルフアーカイビング」と特定領域専門リポジトリ――を簡単に見直してみることにより、機関リポジトリの役割の検証にさらなる文脈を提供することができるだ� ��う。
「著者のセルフアーカイビング」は、出版社の仲介なしに、著者の研究を電子的に公開することにしばしば使われる広い意味の言葉である。実際には、そうしたセルフアーカイビングは、個々の研究者によるプレプリントや(多くの場合)出版された論文を個人Webサイトで公開することと、そうした研究成果を以下に述べる特定領域専門のeプリント・サーバに収録することの二つにまたがる。15 出版された論文の著者によるセルフ・アーカイビングに関する既存の出版社の方針はさまざまで、そうした方針を実施する際の厳格さにも差がある。そうした方針に対する学術論文の著者自身の反応も忠実に従うものから全くの無関心までいろいろである。16
プレプリントの伝統が確立しているいくつかの学問領域では、研究成果プレプリントの共有と蓄積を容易にするため電子的なメカニズムが発展した。高エネルギー物理学および数学(arXiv)、17 経済学(RePEc)、18 認知科学(CogPrints)、19 天文学・天体物理学・地球物理学(NTRSとADS)、20 コンピュータ・サイエンス(NCSTRL)21 といった特定領域専門のディジタル・リポジトリが、そうした特定の研究領域のコミュニティ内部で、既存の研究者仲間のコミュニケーション習慣のディジタル拡張版として進化した。こんな風にこれらのリポジトリ――しばしば「e-プリント・サーバ」と呼ばれる――はそれぞれの分野内で高い参加率を得たのである。
そうしたe-プリントのイニシアティブが著者によるセルフアーカイビングの成功例として頻繁に引用される一方、特定領域専門リポジトリはプレプリントの伝統がない学問領域では同様の成功を収めたわけではなかった。22 従って、特定領域専門リポジトリがいくつかの研究コミュニティを支援しているとは言え、これは学術コミュニケーションの進化する構造の中の一構成要素を提供しているに過ぎないのである。
情報内容層はこのように、機関、特定領域専門、学会提供、商用、あるいは政府関係の情報内容――その情報内容の検索・発見を助ける相互運用性とメタデータ・プロトコルをきちんと守るならばどんなリポジトリをも含めることができる。たとえば、あるプレプリントは同時に特定領域専門e-プリント・サーバあるいは領域のコミュニティ・ポータル、著者の所属機関の機関リポジトリ、そして著者の個人Webページに収録されるかもしれない。同様に、生命科学の研究論文が、著者の機関リポジトリに加えて、BioMed CentralとPubMed Centralに存在することもあり得る。先に述べたように、非集中型モデルはプレプリントや研究論文だけでなく、研究データの集合、ディジタルの単行書、学位論文、会議録、メーリングリストのアーカイブ、その他の灰色文献をも含む。このシナリオにおいては、どんなモデルによる独占も決して起こらない。多数の相互運用可能なリポジトリが共存し、互いに補い合うのである。
アーカイビング
アーカイビング機能もまた情報内容層の文脈で論じることができよう。印刷された雑誌のシステムの下では、図書館員は伝統的に学術コミュニケーションの機能保存を、印刷された文献を物理的に維持・保存することによって支援してきた。ディジタル配布の出現と共に、出版社自身が自社出版物のディジタル版に対するコントロールを主張し、ディジタル情報内容の保存責任を引き受ける――はっきりとした定義された言葉でなされることはまれなのだが――と言い出した。
現在では、ディジタルフォーマットの永続性と保存を保証する普遍的に受け入れられたアーカイブの標準は存在しない。それよりむしろ、技術的に最善の実践例の発展し流動する集合がほとんどのディジタル保存計画を先導している。長期にわたるディジタルオブジェクトの保持は、先のことを考えた管理と相当量の資源を必要とする。多くの図書館員たちはこうした仕事に対する出版社の適性に懐疑的で、それは出版社が本質的に短期的な視野しか持たないと感じているからである。機関リポジトリは、非集中型学術出版モデルの文脈の中で、研究資料の保存責任を図書館員の手に引き続き委ねるものであり、彼らこそ職業としてそれに携わる準備と気構えを保持してきたのである。
どんな機関においても、リポジトリで受け入れる技術的フォーマットのバリエーションとその移植性のための準備に関する決断は、長期的なデータの移行・蓄積への資金確保に関する機関の取り組みと共に、そのリポジトリがアーカイブ機能をどの程度果たしているかを決定することとなろう。23 それでもなお、今発展中の相互運用可能なリポジトリおよびミラーサイトの分散型ネットワークは、断片的で出版社固有の利益によるものよりも健全なディジタル保存の枠組みを提供するものである。ディジタル・オンリーの資料の割合が増加し続けている今、明らかに、この問題はよりいっそう緊急性を増している。
サービス層
サービス層は登録、認定、報知といった機能のための実際的なメカニズムを提供するさまざまな付加価値サービスを含んでいる。こうしたサービスは現在の雑誌出版システムによって提供されているものを補完あるいは置き換える。繰り返しになるが、こうしたサービスは機関リポジトリや補完的なオープン・オンライン・リポジトリにおける情報内容を利用しやすくするのだが、リポジトリ自体からは論理的に分離したままなのである。
登録
研究成果の加速度的増加(少なくとも自然科学においては)により、増大する量に対処するため、登録および認定の代替メカニズムが必要とされている。新しいモデルが不在のため、既存の雑誌の認定システムの帯域幅が、科学的・学術的コミュニケーションを促すどころかむしろ制約となっているのである。機関リポジトリに収録された刊行済みの査読を受けた研究成果はすでに最初の出版社の登録・認定プロセスをクリアしたと言えるだろう。しかしながら、プレプリントや他の未刊行資料は機関リポジトリの情報内容受入プロセスによって最初に登録されることになろう。これに続く認定は、実際に登録を承認するものだが、伝統的な出版プロセスを通してあるいは同じ目的を達成するための新しいメカニズムを 通して、しかし現在の雑誌出版システムのような独占的意味合いを排して、行うことができるのである。
認定
現在発展中の機関リポジトリのイニシアティブのほとんどが情報内容入力のコントロールを利用者(著者を含む)コミュニティに頼っている。これらのコミュニティは、大学の学部、研究センターや研究室、経営グループ、およびその他のサブグループを含んでいる。教員等はどんな情報内容が収録に値するかを決定し、自分達の研究コミュニティの審判者として振舞う。かくしてリポジトリへの最初の提出段階における認定は機関内のスポンサーによるものとなり、質的な審査や認定の厳密さはさまざまなものとなろう。ある場合には、認定は暗黙的で連想的なものとなり、著者の所属学部の評判から導き出されるだろう。他の場合には、より活発な査読となり著者の学部の同僚による審査が行われるかもしれない。連� ��的な認定よりは形を整えているが、こうした認定は一般に厳密な外部評価者の査読よりも甘いものだろう。それでも、基本的なレベルの認定に加えて、このプロセスはその機関の著者にとってリポジトリの情報内容の妥当性を確認する手助けとなり、学部教官の参加をうながすような同僚が動かすプロセスを提供するのである。ここで注意すべきなのだが、基本的な登録と認定の機能を果たすために、リポジトリは機関内に公式あるいは正式な位置を占めなければならない。非公式な、草の根的プロジェクトは――どれほど意図が立派でも――公式な承認を得るまでこうした機能を果たすことはできないだろう。
オーバーレイ・ジャーナル――ひとつあるいはそれ以上のリポジトリに収録されている論文や研究報告を指し示す第三者のオンライン・ジャーナル――は非集中型モデルにおける査読認定のもう一つのメカニズムを提供する。オーバーレイ・ジャーナルのための情報内容のいくつかは審査付き学術雑誌に以前に発表されたものかもしれないが、その一方でプレプリントあるいは進行中の研究という形でしか存在しなかったものかもしれない。24 ある論文が二つ以上の雑誌に現れ、二つ以上の審査団体によって評価されるというようなことができるため、こうしたオーバーレイは複数の論理的アプローチによる研究論文の集合や組み合わせを可能にするだろう――たとえば、特定のテーマやトピック(人文科学や社会科学におけるアンソロジーと機能的に等価なものとなる)、25 領域をまたがったもの、あるいは所属によるもの(学部構成員の研究をまとめた紀要)など。そうした学術雑誌は今日実在する―― たとえば、Annals of Mathematicsは、二つばかり名前をあげてみるだけでも、arXiv26とPerspectives in Electronic Publishing27にオーバーレイしている。――そして分散したオープン・アクセスの情報内容の量が増加するにつれ、こうした雑誌は勢いを増すだろう。分散した情報内容を指し示すオーバーレイ・ジャーナルの他に、高価値情報ポータル――特定の研究コミュニティに専門化した巨大な洗練されたデータ集合を中心として――共有されたデータに基づいた新しいタイプのディジタル・オーバーレイ出版物を生み出すことだろう。28 雑誌のタイプにかかわらず、オーバーレイ・ジャーナルが提供する認定の質を評価するための基礎は現在の学術雑誌システムとそんなに変わらない。優れた編集者、質の高い査読者、厳密な基準、そして証明された質である。
こうした現在の学術雑誌の認定システムに類似したものに加えて、非集中型モデルはまた新しいタイプの認定モデルをも可能にする。RoosendaalとGuertsは内部および外部の認定システムの持つ意味合いに注目した。29 認定は研究自体に関連した、内部の方法論的考慮のレベルがふさわしいかもしれない――ほとんどの学術論文査読の標準的な基盤である。他方、著作は研究それ自体とは外れた基準で判定され、認定される場合もある――たとえば、その経済的意味あるいは実用性など。そうした内部および外部の認定システムは典型的に異なった文脈で実行され異なった基準が適用されるだろう。非集中型モデルにおいては、こうした多用な認定レベルが共存できるのである。
新規および既存両方の認定メカニズムを支援するため、品質認定メタデータが標準化でき、OAI準拠の自動収集が可能となるだろう。これによって読者は、ある論文の初出とかあるいはどこで見つかったかといったことにかかわりなく、その論文に関する認定情報が存在するかどうか決定できるようになるだろう。30
報知
さまざまなメカニズムが報知機能を満たすのに寄与している。この機能は、理想的には、研究成果のスムーズな伝達・配布を容易にするものである。 ほとんどのこうしたサービス・レベルの報知ツールは、情報内容提供リポジトリの相互運用性(およびそれを支える標準とプロトコル)によって可能となる。 たとえば、検索エンジンはリポジトリの連合から収集されたメタデータを検索するだろう。 本質的に異なるタイプの情報内容へのアクセスは、検索インターフェースをテキスト検索モデルから複合的なデータのタイプを扱うことのできる検索エンジンへと進化させるだろう(たとえば、生物学的情報、細胞構造、ゲノム構造など)。上述したオーバーレイ・ジャーナルに加えて、別のタイプの情報内容フィルターが研究を促進し、教育を改善することとなろう。たとえば、個人的なアラートサービス、これは現在の商用情報検索サービスで得られるのに類似したものだが、分散したオープン・アクセスのリポジトリを横断して実行され、利用者指定のトピックに関する新しい研究が見つかった時に知らせてくれるものである。31
引用リンクは、複数の分散したオープン・アクセスのリポジトリにおいて、利用者の研究へのアクセスを改善し、論文間の歴史的および概念的な流れを明らかにし、研究の質を判定したり研究者の生産性を測ったりするための新しい方法を育てる。32 新しいベンチマークと評価の技術もまた進化し、オープン・アクセス可能な研究成果の集合全体のさらなる分析を可能にしている。さらに、広範囲のオープンな引用リンクと洗練された遡及的分析は、ある特定の概念や研究主題に関する文献の最も効率的な経路が確認できるような、あるいはある研究論文によって生み出された新しい研究の軌道を地図に表せるような、文献サマリーの創造を可能にするだろう。ここでもまた、データ提供者とサービス提供者が論理的に分離され続ける限り、こうした機能強化の競合するバージョンが、情報内容自体へのアクセスには独占的な制限を生じることなく、営利、非営利双方の団体によって開発・提供され得る。33
まとめ
以上概要を示した、分散化を通した学術コミュニケーション・プロセスの改造は、オープン・アクセス可能な研究成果の大きな集合体を前提としている。機関リポジトリは、たぶん他のどんなタイプの情報源よりも、非集中型コミュニケーションシステムの二次的な情報および知識コンポーネントを有効にするのに必要な、臨界量に達するオープン・アクセスの情報内容を確保するのに大きく貢献できるだろう。同時に、この新しい構造が伝統的な学術出版社を追い出すのではなく、受け入れるのだということは強調されるべきである。非集中型学術出版モデルの目的は現在の学術雑誌システムを破壊することではなく、このシステムが学術機関および図書館に与えている独占的なインパクトを弱めることにある。機関� ��ポジトリや他のオープン・アクセスのイニシアティブが競争を増やし、圧力をかけて価格を適正範囲に収めようとする一方、学術機関で生まれた情報内容とは一線を画す価値を付け加えることで、伝統的学術出版社は競争現場の一部を形成し続けることだろう。
機関リポジトリの本質的要素
われわれは学術コミュニケーションの主要な諸機能のあらましを述べ、その統合が現在の学術雑誌出版システムにおいて持つ市場的意味合いを説明し、非集中型のモデルにおいて諸機能を分離することがコミュニケーション・プロセスと学術機関に対して潜在的利益になることについてあらましを述べた。先へ進む前に、上の議論を「機関リポジトリ」の作業用定義に適用するのが妥当である。
広く言えば、ディジタル機関リポジトリは、ある単科大学または総合大学によって、目的あるいは由来のいかんを問わず、預託、所有あるいはコントロール、あるいは配布されたりするディジタル資料のどのようなコレクションでもあり得る。しかしながら、ここでは定義を狭め、特別なタイプの機関リポジトリに焦点をあてよう。――次の二つの補完的な目的をサポートすることができるものである。すなわち再構築された学術出版モデルの一要素、そして機関の質の具現化である。
そこでわれわれの目的に沿って定義すると、機関リポジトリとは、ある機関の教員、研究職員、学生により創造された知的生産物のディジタル・アーカイブで、その機関内外のエンド・ユーザーにアクセス可能で、障壁があるとしても最低限、のものである。言い換えれば、機関リポジトリの情報内容は、
- 機関で範囲限定され
- 学術的で
- 累積的かつ永続的で
- オープンで相互運用可能なものである。
われわれはこの定義の各要素を以下で展開・限定する。しかしながら、そうすることの目的は、機関リポジトリとしての資格を与えるのに必要な要件を正確に規定することではない。後に見るように、機関リポジトリは多様な形を取り、さまざまな目的に奉仕することが可能である。実際、学術機関によって既存の電子図書館イニシアティブのために整えられた技術的・管理的インフラは、修正あるいは目的変更によって、多くの場合、機関リポジトリの要件として利用できるだろう。同様に、われわれのより狭い定義の機関リポジトリも、機関のディジタル資産すべてに事実上またがる、より包括的な機関イニシアティブの一つの構成要素を形成するであろう。34 むしろ、われわれに必要なのは、機関リポジトリを実現するのに関わる組織的、技術的、財政的、そして文化的問題の議論を有意義なものに限定するため、本質的な定義要素を同定することである。
機関で範囲限定
領域専門リポジトリや主題指向あるいはテーマ型電子図書館とは対照的に、機関リポジトリは多数の分野で活動する機関構成員によって生み出されたオリジナルな研究成果や他の知的財産を入手する。このように定義されるので、機関リポジトリは機関の知的生活および成果の歴史的かつ具体的体現となる。そして、機関に所属すること自体が一次的な質的フィルターとしてはたらく度合いに応じて、このリポジトリは機関の学問の質の重要な指標となるのである。
大学に応じて、機関リポジトリは大学アーカイブによって果たされている役割を補完したり、あるいは競合したりするだろう。大学アーカイブはしばしば二つの目的を持つ。1)法的に強制された保有義務を満たすよう運営上の記録を管理するため、そして2)機関の歴史や、その役員、教員、職員、学生、卒業生の活動と業績に関する資料を保存するためである。機関の知的成果全体を保存するのが狙いである機関リポジトリと比較して、大学のアーキビストはどの書類やディジタル・オブジェクトを収集・蓄積するかということに幅広い自由裁量権を行使する。それでもなお、この二つのタイプのリポジトリは役割がオーバーラップする可能性があり、両方をサポートする機関では考慮に値する。
機関リポジトリを育てることは、それぞれの機関が全部自分たち自身で行うことが要求されるわけではない。多くの単科大学や総合大学にとっては、既存の、州あるいは地域の、機関あるいは図書館コンソーシアムが、共同開発を通して機関リポジトリを実現させるための、合理的なインフラとなるだろう。そうした協力はスケールの経済性をもたらし、技術的システムの無用な重複を避ける手助けとなるだろう。実際、コンソーシアムが、機関リポジトリを増やし、オープン・アクセスの情報内容が臨界量に達するための、最速の道筋だと判明する可能性が高い。
以下の議論の多くが学術機関のニーズに応じるリポジトリに焦点を合わせているが、研究成果や他の知的所有物を相当量生み出している他のタイプの機関も、同様のリポジトリを築き上げることができるだろう。これには政府の省庁や機関、非政府組織、政府間組織、美術館、独立研究機関、学会の連合、そして(少なくとも理論的には)商業団体が含まれるだろう。――知的生産物を取り込み、オープンに配布することで、科学/学術的思想の伝達に寄与し、その結果生まれる組織の可視性を享受しようと望む組織なら何でもいいのである。
学術的情報内容
おのおのの組織によって定められた目標に従って、機関リポジトリは、その機関の学生、教員、学部に所属しない研究者、そして事務職員によって作り出された、どのような産物をも含み得る。この資料は学生の電子ポートフォリオ、授業資料、機関の年次報告、ビデオ記録、コンピュータ・プログラム、データセット、写真、そして美術作品――事実上、機関が保存しようと望むあらゆるディジタル資料を含んでいいだろう。35 しかしながら、SPARCは学術コミュニケーションおよび学術出版モデルの構造を変化させることに焦点を当てているので、ここでは機関リポジトリを――他に何を含んでもいいのだが――学術的な情報内容を収集し、保存し、配布するものと定義しよう。この情報内容はプレプリントや他の進行中の仕事、査読を受けた論文、モノグラフ、永続的な価値を持つ授業資料、データセット他の補助的研究資料、会議録、電子学位論文、36そして灰色文献などを含むだろう。
タイピングを学ぶためにどこに
この情報内容へのアクセスをコントロール、管理するためには適切な方針メカニズムが要求される。そこには情報内容管理および文書の版管理システムが含まれる。リポジトリの方針の枠組と技術的インフラは、さまざまな機関内コミュニティや利益集団(学科、図書館、研究センターや研究室、そして個人著者を含む)からもたらされるディジタルの情報内容を、誰が寄稿し、承認し、アクセスし、更新することができるのかをコントロールするための柔軟性を、機関の管理者たちに提供しなくてはならない。いくつかの現在開発中の機関リポジトリのインフラ・システムは、指定された審査者によって承認されない限り、提出物へのアクセスを制限あるいは禁 止する機能を持っている。この審査の性格と程度は個々の機関、あるいはまた参加している機関内コミュニティおのおの、の方針とニーズを反映することになるだろう。上記のように、時にはこの審査は、単に著者が機関に所属していること、および/あるいは資料をリポジトリに投稿する権限があることを確かめるだけだろう。別の場合には、審査はより質を問うもので踏み込んだものになり、一次的な認証の役割を果たすことになるだろう。
累積的かつ永続的
大学内および学術コミュニケーションのより大きな構造内の両方における機関リポジトリの役割に本質的なのは、収集された情報内容が累積的かつ永続的に維持されるということである。これは二つの意味合いを持つ。
第一に、リポジトリへの情報内容提出基準がどのようなものであれ、一度提出されたものは取り下げることができない――名誉毀損、剽窃、著作権侵害、あるいは「誤った科学」などの申し立てに関わる、おそらくはまれなケースを除いて。 この削除は最初にリポジトリへの受入資料として許可された登録の取消と機能的に等しいものとなるだろう。37 これは必ずしも、すべての情報内容が永続的・世界的にアクセス可能となることを意味しない。 機関はリポジトリの情報内容への、機関内部からと外部からの、アクセスを許可するための基準と方針を策定し、権利管理システムを実現しなければならない。これによって可能な限り広範なアクセスという目標と教員の参加を奨励するという現実とのバランスを取るのである。 機関リポジトリの累積的な性格はまた、リポジトリのインフラが拡張可能であることを意味する。最初の処理や記憶装置が必要とするのはささやかなものかもしれないが、機関リポジトリのシステムは年に何千もの提出を受け入れることができなければならず、やがては何百万ものディジタル・オブジェクトや何テラバイトものデータを保存することができなければならないのである。38
第二に、機関リポジトリの狙いはディジタルの情報内容を長期的に保存しアクセス可能にすることである。ディジタル保存と長期的なアクセスは密接に結びついている。それぞれ、もう片方がなければほとんど無意味なのである。39 リポジトリにおいてディジタル・オブジェクトへの長期的なアクセスを提供することは、相当な計画と資源の投入を要する。さまざまな領域で人気のあるファイル・フォーマットを寄せ集めて受け入れたいという要求、これは情報内容の提出を簡単にして教員の参加を促すためだが、それと、新しい標準が開発され、こうしたフォーマットやメディアを移行する場合に出現するであろう複雑さとのバランスを機関は取る必要がある。ある機関が学生にディジタル標準フォーマットを押しつける――たとえば電子学位論文の提出などにおいて――ことは可能だが、そうしたフォーマットを教員用に規定することは、姿勢の面でも実用上の理由からも、はるかに問題が多いこととなる。
相互運用性とオープン・アクセス
機関によって作り出された知的生産物に対して障壁のない、あるいは少ないアクセスを提供することは、研究成果がより広く知られるきっかけとなる。ある機関がディジタル・リポジトリを創設し維持する動機となる目的は――学術コミュニケーションの変化しつつある構造の構成要素として機関全体におよぶものであれ、自機関中心的なものであれ――その機関のコミュニティを超えた利用者が情報内容にアクセスできることを要求する。
より広い研究コミュニティにアクセスを提供するリポジトリでは、大学の外からの利用者がリポジトリから情報を発見し引き出すことができなくてはならない。従って、機関リポジトリのシステムは、多数の検索エンジンその他の発見ツールを介したアクセスを提供するために、相互運用性を提供できなくてはならない。一機関がこの要求を満たす検索および索引機能を実現する必要は必ずしもない。単にメタデータを維持し公開して、他のサービスがそれを取得し、情報内容を検索できるようにするだけでもいい。 この簡単さは多くの機関にとってリポジトリの運用に対する障壁を少なくするものであり、必要なのは情報内容を保持するファイル・システムと、メタデータを作って外部のシステムと共有する能力だけである。40
複数の学問領域におけるそれぞれ異なった出版慣行を考えれば、ある機関の情報内容受入とアクセスの方針は、リポジトリに寄託された出版前資料へのアクセスについての研究者の合法的な心配を考慮したものである必要がある。 機関リポジトリは原則として一度提出された情報内容が削除されることを許さない。しかしながら、さまざまな合法的状況が一部利用者に特定の情報内容に対してアクセスを制限することを機関に要求するかもしれない。こうした状況に含まれるものとして、著作権の制約、特定の研究コミュニティによって定められた方針(たとえば、学部のワーキング・ペーパーはアクセスを学部のメンバーに限るといった)、機関のスポンサー付きプログラム事務局がスポンサー契約の条件を順守するために要請するであろう制限、さらには特定データに対するアクセス料金徴収さえあるかもしれない。こうした方針に基づいた制限を実現するには、利用者のタイプ、所属機関、利用者コミュニティその他のさまざまな基準により、情報内容――そし� ��おそらくはディジタル・オブジェクトの一部分――へのアクセスを許可したり制限したりするための、頑丈なアクセスおよび権利管理のメカニズムが要求される。41
機関リポジトリの主要な利害関係者に対するインパクト
電子出版技術が進化し続け、学術コミュニケーションの構造に根本的な変化を求めているため、このプロセスにつながりのあるすべての人が影響を受けるだろう。 図書館員、大学教員、学生・研究生、研究補助金交付機関、そして営利および非営利出版社。機関リポジトリが主要な利害関係者に与えるインパクトの性質と度合いは、抵抗に出会うかもしれない場所やそうした障害が緩和され克服されるであろう方法を示唆する。 同様に、機関リポジトリの提案者がその利点を鍵となる参加者に伝えるにあたっての明瞭性は、個々の実践が成功するか否かに直接的なインパクトを与えるだろう。42
図書館
機関リポジトリの大学図書館への潜在的なインパクトは戦略および戦術の両方のレベルで発生する。 機関リポジトリ・プログラムの確立が示すのは、図書館が保管的な役割を越えて学術コミュニケーションの進化に積極的に寄与することを目指す、ということである。 伝統的な学術出版社が競争現場の一部であり続ける――予測可能な未来では多分そうなのだが――限り、大学図書館は伝統的な形で出版された印刷資料を管理・保存する責任を保持するだろう。 しかしながら、ウェブ上でオープン・アクセスの高品質な研究の量が増加するにつれて、図書館の雑誌コレクションの役割および価値は比例して減少していくだろう。 図書館のプログラムや予算は大学教員のオープン・アクセスの出版活動支援にシフトしていかなくてはならないだろう。図書館がこの重要な顧客をつなぎ止めるためには。 未来への投資が組織の至上命令であるような図書館にとっては、機関リポジトリは一つの注目しないわけにいかない回答を提供する。
現在、何人もの教員がかなりの時間とエネルギーを学術情報配布の技術的側面に費やしている一方で、教員の主要な役割は将来も変わらず、情報の投稿者、末端利用者、交換代理人といったものだろう。 長期的には、ディジタルの情報内容の組織化・維持は――情報の投稿者および末端利用者としての教員支援と同様――図書館の責任であり続けるべきだろう。 図書館は多くの文書準備の専門知識(文書フォーマットのコントロール、アーカイブ標準、等)を提供するのに最適で、これは著者が自分の研究成果をその機関のリポジトリに投稿する手助けとなる。 同様に、図書館はメタデータのタグ付け、オーソリティ・コントロール、その他の情報内容管理に必要な情報に関する大量の専門知識を最も効果的に提供でき、これはデータ自体へのアクセスおよび利便性を高めるものである。
機関リポジトリに付随する文書管理の仕事を引き受けることは、しばしば図書館員の新しい役割と解釈される――従来のスタッフの仕事に、事実上、上乗せとなるものだと判明する役割ではないか、という疑いを持たれている。 それでもなお、逸話的な証拠が示唆しているのだが、図書館員たちはこれらの追加業務を歓迎しているようで、それはそうした仕事が教員との接触の質と頻度を高め、その結果、彼らのコレクション構築の意志決定に情報を得て改善することができるからである。43
もし図書館が機関リポジトリの設立と運用をリードするならば、それはまた重要な教員や管理職の手が差し伸べられることであり、上記の教育機能も得られることが想定される。現在の事実上すべての機関リポジトリ・イニシアティブのリーダーたちは、さまざまな機関や実践方法の違いにもかかわらず、教員、管理職、その他の関係者が、共有された目標および政策の確立・伝達において、密接に協力することの重要性を強調することで一致している。44
こうした戦術的な意味を超えて、機関リポジトリ・プログラムは大学内における非常に高いレベルの可視性を図書館に約束する。図書館が教員による電子出版活動の支援に移行するにつれ、図書館の教員――そして、結果として、機関全体――に対する関与は増大することだろう。
教員および研究者
学術コミュニケーションの基本的構造におけるどんな変化に対しても、最大の障害は伝統的な出版のパラダイムへの安住にある。そしてこの無気力がどこよりも深刻なのは――職業的な利害関係を考えれば理解はできるのだが――大学教員のあいだである。出版業界とは異なり、学術的な著者が自分の発表した研究論文から直接の金銭的補償を受けることはまれである。それよりむしろ、彼らは職業的認知とキャリア積み上げのために、また彼らの研究領域に寄与するために発表するのである。これら教員のニーズと認識――そしてそれを満たすのに機関リポジトリの適切さを示すこと――が情報内容に関する方針、実行計画、そして内部的なマーケティングの中心となるに違いない。
教員たちの認識――そして機関リポジトリが意味する変化への彼らの反応――は学問領域によってさまざまに異なるだろう。ほとんどの機関では、教員が従うかどうかは任意とせざるを得ず、さもなければ、支持に回ってくれそうなメンバーからさえ、抵抗にあう危険を冒すことになるだろう。45 当然のことながら、機関リポジトリに参加することの直接の利益が、はっきりと強調されなくてはならず、それがしばしば教員の支持を生むことになるだろう。さらに、機関固有のインセンティブ――とりわけそれが職業的な評価と昇進に結びついたものであれば――がさらに教員の参加を促すだろう。
教員の出版プロセスの鍵となる要素は、著作権の保持と非排他的なライセンス供与である。、オープン・アクセスの機関リポジトリに研究を発表することを含め、著者がセルフ・アーカイブの権利を保持することは学術出版システム改革の本質的な要素である。研究成果へのオープン・アクセスを提供する権利を著者が保持することに対する出版社の抵抗は――出版社の観点に立てば――理解できるものではある。なぜならこれは出版社の独占に対する挑戦だからである。著名な雑誌に発表することが昇進に重大な影響を与えることを考えれば、学術論文の著者は出版社の要求に屈服するしかないと思うかもしれない――そもそもこの問題を考慮することがあるとすればだが。著作権とセルフ・アーカイビングの問題の認識、および伝� ��への挑戦、はいくつかの領域において広がっているが、この問題に関する継続的な教育はどんな機関リポジトリのコミュニケーション・プログラムにも必要な構成要素となるだろう。
機関リポジトリの方針、実践および期待は、学問領域間の出版習慣の違いをも吸収しなくてはならない。領域固有のディジタル・サーバを開発した先駆的領域は、既に出版前論文の公開が伝統になっていた領域だった。46 当然のことながら、機関リポジトリの収集方針や教員へのアウトリーチ・プログラムを開発する際には、領域に既存の研究者仲間のコミュニケーションや研究のしきたりが考慮される必要がある。出版前発表の伝統がない領域の研究者に出版前のバージョンを供給してもらうためには説得が必要だろう。彼らは剽窃を恐れたり、正式な出版のため著作を出版社に託す際に著作権その他の契約問題が起こることを心配するかもしれない。47 彼らはまた、査読や編集の恩恵を受けないうちに著作が批判を受ける可能性を恐れるかもしれない。こうしたプレプリントのない領域では、教員の出版後の著作を収集することに焦点を当てるのがより実際的な初期戦略かもしれない。48 出版済み資料をリポジトリに含めることはまた、とりわけプレプリントのない領域の学者から、リポジトリのワーキング・ペーパーは著者の研究に偏見を与えるかもしれないという心配を取り除くのに役立つだろう。従って、出版済み資料を含めることは、著作権問題が発生はするが、プレプリントの伝統のない領域からの参加を得る上での敷居を低くするに違いない。著者がリポジトリに発表するために必要なセルフアーカイビングの権利に対する伝統的出版社からの抵抗に出会うところでは、機関がそうした出版社と交渉して、出版済みの研究成果への制限付きアクセスを可能にできる。49
大学教員の著作者としての参加を得ることが、学術出版の構造の進化的変革を実現するために本質的に重要である一方、初期の経験が示唆するのは、リポジトリは伝統的な印刷体雑誌に取って代わるものではなく、補完するものとして位置づけた方が成功するということである。50 このコースはオープン・アクセスの電子出版に対する最も難しい反対意見、すなわち既存の学術雑誌のような質や権威を欠くという異論、を部分的に封じるものである。これはまたリポジトリ推進派に対しても、リポジトリが参加者に直接提供する第一義的な便益をもとに教員参加の主張を固めることを可能にし、二次的な便益や、個人レベルではこれまで十分役立ってきた学術コミュニケーションのモデルを改革するといった、利他的な教員の気持ちに頼らなくても済むようになる。
オンラインのオープン・アクセス出版の著者にとっての主要な利益は、職業的な可視性を高めることに関係する。この可視性や認知といったものは、より広い範囲の伝達と利用の増加によって高められる。どんな図書館もすべての雑誌――出版の質はどうあれ――を購読することはできず、大量の研究文献が多くの研究者にアクセスできないようになっている。上述のように、OAIプロトコルは相互検索可能な研究情報のグローバルなネットワークの可能性を創り出している。意図的に、ネットワーク化されたオープン・アクセス・リポジトリはアクセスの障壁を低くし、学者の著作を可能な限り広く伝達する。さらに、学部のオーバーレイ紀要や雑誌が、学部構成員の地位に加えて、学部全体の可視性および地位を高める。もう一つ関� ��して著者が得る利益は、オープン・アクセスの論文はオフラインのものに比べてインパクトが上がるということである。研究によって証明されているのだが、適当な索引と検索の仕組みが提供されれば、オープン・アクセスのオンライン論文は伝統的な形で出版された論文よりもかなり高い引用率を示す。51 このタイプの可視性や認知は個人著者および著者の所属機関の双方にとって良い前兆である。52
それに加えて、高度な引用索引や名前の典拠コントロールといった付加価値サービスは、教員の専門分野におけるインパクトが尺度となるような場において、より確固とした業績の質的評価を可能にするだろう。ある学者の一連の著作の質的インパクトを全体的に評価することができる統合的なメカニズムにより、学術機関は著作の量ではなく質を強調することが容易になるだろう。53 これは不必要に研究を分割して複数の雑誌に投稿するといった、量重視の立場を弱めることになるだろう。大学教員の出版業績を量的なものではなく質的な基準で測定できることは、教員およびその所属機関双方にとって利益となるに違いない。
上で論じたように、機関リポジトリは現在冊子体の雑誌によって果たされているもう一つの機能をも果たし得る。アイディアや知的財産の優先権の登録である。印刷物につきものの物理的なページの制約を取り除くことにより、電子出版は価値ある研究が入手して読むことができるようになる量を拡大する。このように、機関リポジトリはより大きな割合の研究者に対して、認められたフォーラムに著作を登録するための場を提供する。ページの制約を取り払うことのもう一つの意味は読者=消費者としての教員に関わってくる。ほとんどの学問領域における進歩は入手できる情報の量に大きく依存する。すべての条件が同じであれば、先に研究した方がより深くより良い学問となる。ゆえにより関連の深い研究をオンラインでより速� ��より簡単につきとめ、入手する能力は、学術コミュニケーションを改善し、学術研究を進歩させることになるだろう。
著者としての大学教員にとっての利益の他に、機関リポジトリは教育者としての教員にとっても利益を与える。教員作成の一時的なものではない教材を加えることにより、リポジトリは教室での教育を支援する資源として役立つ。こうした教材は概念のイラストレーション、ビジュアル化、モデル、コースのビデオなどといったものを含むだろう。――多くの資料はしばしばコースのウェブ・サイトに見つかるものである。この利益は機関リポジトリのアピールを拡大し、より広い範囲の研究および教育に携わる教員が対象となるのに役立つに違いない。
学生
学生の電子学位論文等もまた機関リポジトリに取り込まれるべき論理的情報内容を提供するのであって、その限りにおいて、学生もまたそうしたリポジトリにおける著者としての利害関係者となる。しかしながら、機関が文書フォーマットや著作権に関する方針を教員に強制するのには困難が予想されるのに対し、学生の提出物についてはそうした困難はないだろうと思われる。大学は概して卒業論文に対して厳格な文書フォーマット要件を定めており、学生たちもそれをきちんと守るのに慣れている。さらに、学生たちの方が教員よりも速く、少ない条件で電子出版のチャンスに適応すると予測できるだろう。54
出版社
機関リポジトリのオープン・アクセスの側面は、多くの学術出版社の既存の予約購読に基づいたビジネスモデル――およびそれに付随する収入の流れ――を脅かす。株主の利益を確立しようとする商業出版社および運営経費の一部を雑誌からの収入に頼る非営利の学会の両方とも、予約購読に基づく収入の流れに依存している。理解できることだが、こうした出版社は利用者側の料金をなくすビジネスモデルの要求に対して脅威を感じている。55
我々はそれを大切にした理由に値する
商業出版社
先に論じたように、伝統的な出版モデルの統合された価値の連鎖は、出版社が価格レベルを維持するのを可能にしており、これは非集中的で、非独占的な環境では不可能なことだろう。何人かの人が注目したように、学術的情報内容の性質は個々の論文および個々の雑誌を事実上の独占状態に置くのであって、出版社の価格の地位をさらに安全なものにする。情報内容自体へのアクセスをオープンなものにして、相互運用可能なディジタル・リポジトリのネットワーク経由の無料の品に変えることは、このビジネスモデルを根本的に崩壊させる。先に概要を示した付加価値情報サービス――査読、引用リンク、統制語彙、その他―― は出版社に収益をもたらす機会を提供する一方で、非集中的な構成要素のおのおのの競争が、事実上の情報内容独占がない状態では、大商業出版社が慣れ親しんできた利益マージンを奪い去るだろう。さらに、出版社にとっては、――戦略的にも、財政的にも、心理的にも――あれほど会社のアイデンティティの中核となっている現在の活動から撤退することは困難だろう。とりわけ学界の顧客の大部分が、代替手段が効果的だと証明されるまで、なおも伝統的なビジネスモデルを好んでいる間は。商業学術雑誌産業の未来は、出版社がオープン・アクセスのリポジトリによって強いられる情報内容およびチャンネルの排他性喪失、および出版価値の鎖のすべての要素を類似の無料サービスとのはかりにかけるマーケット環境にどのように� ��応するかにかかっている。56
初期の段階では、セルフ・アーカイビング――機関リポジトリへの参加も含めて――は散発的で不安定であり、既存の出版社への目に見える脅威にはならないように見えるかもしれない。しかしながら、固定費用が高い場合、予約購読者がほんの何パーセントか減っただけで、価格やマージンに劇的な影響を与えることもあり得る。57 そうした出版社の懸念が杞憂だと言うのは不誠実だろう。それでも、既存のビジネスモデルへの影響がどれほど破壊的であろうと、大学の責任はオリジナルな学問を生み出し知識を広めるところにあるのであって、マーケットの現状を維持したり出版社の株主の財産を保護することではない。とにかく、伝統的な学術出版のパラダイム全体に蔓延する惰性が、商業学術出版社の速やかな崩� �を恐れる必要などないことを示唆している。最良の出版社は新しいモデルに適応して生き残り、変化はしても価値ある役割を学術コミュニケーションにおいて果たし続けるだろう。
学会出版部
学会出版部はほとんどの場合、営利出版社に比べて、独占状況を利用すことにはるかに消極的である。そうであっても、ほとんどの学会出版プログラムは、非営利の文脈においてではあっても、しばしば組織の運営費用やメンバーに対するサービスをカバーするのに多大な寄与をしている。だから、機関リポジトリや他のオープン・アクセスの学術研究成果の伝達を擁護する提案が学会出版部の間に、あからさまな抵抗ではないにせよ、不安を生み出すことは驚くにあたらない。学会がメンバーに対するサービスを行う上で可能な限り広い視野を持つこと――該当分野の研究成果への出来る限り広範なアクセスを含めて――が期待される一方で、学会がその収入源を学術発展のために放棄するなどというのはありそ� ��もないことである。58 従って、機関リポジトリや他のオープン・アクセスのシステムの環境下で、いかにして学会出版部は運営を続けることができるかを見直すことが重要である。
ある人々が示唆するところでは、機関リポジトリ、プレプリント・サーバ、個々の論文の電子的統合システムは論文のパッケージとしての雑誌の重要性を損なうものである。59 しかしながら、機関リポジトリや他のオープン・アクセスのメカニズムが学術雑誌の存在を脅かすのは、それらが定評ある学会誌のブランドを打ち破り、学問の世界での昇進決定において、個々の論文のインパクト測定が雑誌のインパクト・ファクターに置き換わる場合のみである。最初の点に関して言えば、雑誌のブランドは、予測可能な範囲の未来では、論文や著者の質の評価とは切り離せない状態が続くだろう。著名な編集陣と定評ある発行の歴史を備えた、市場に通じた雑誌は、論文単位の統合サービスが盛んになったとしても、その名声を保ち続けることができるに違いない。第二の点に関しては、新しい測定法が進歩して個々の論文の質的インパクトを証明するようになるにしても、厳密な査読は継続して価値を提供するだろ� ��。個々の論文のインパクト分析が広く行き渡り、大学の終身在職権判定委員会に受け入れられるようになった後でも、厳格な判定基準は質を示す上で中心的役割を果たし続けることだろう。60
実際、非集中的な学術コミュニケーション構造は、査読やその他の形の認定への学会の参加へのスコープを広げる。印刷出版によって課されたページ制限を取り除き、(物理的なスペースよりも)質的な判断による出版採否の決定に基礎を置くことは、全体として出版できる研究の量を増やす。電子出版が可能にする、こうしたより大量の出版可能な研究成果は、学術的な価値や名声を付与するためのより大きなシステム能力を要求し、これが潜在的に査読における学会の役割を排除するよりもむしろ拡大させるのである。ある著者の仕事の質とインパクトを測定するための新しい方法が、終身在職権その他の昇進決定において、信用を得る必要があり、そうした新しいシステムの受容に必要な文化的政治的変化を成し遂げるのに学会� ��役立つことが示される可能性がある。
学会はまた図書館と協力し、リポジトリ間汎用の著者および文書の典拠コントロールを開発・維持することができるだろう。この個人名および団体名の典拠コントロールは、著作がどこに収録されているかを問わず、著者を特定するのに必要となる。典拠コントロール自体は論理的には図書館の仕事として残る一方、この典拠コントロールのいくつかの側面はプロの学会によって最もよく支えられる性質のもので、学会は著者の現在の所属その他の関連データを含め、補完的な著者情報をメンテナンスすることができるだろう。
学会はそのメンバーと長年の関係を持っており、彼らが代表する研究コミュニティの中心として活動することが可能であるべきである。学会費は一般に学会誌の予約購読費を含んでいるのだが、学会メンバーは雑誌購読自体だけでなく他にも学会員であることの利益――そして、多分、付加価値――をも享受している。従って、学会は雑誌の予約購読という価値の他にコミュニティ支援の諸サービスを提供してその会費を正当化しているのである。オンラインで無料で入手できる雑誌に購読料を課すのは困難だと商業出版社が判断するであろう一方で、学会出版部は――会員の利益の位置付けを変更することにより――大幅な会員脱退あるいは収入の減少をこうむることなく、オープン・アクセスのリポジトリを介した雑誌論文の入手� ��許可できることを証明するだろう。
われわれの議論のほとんどが学術雑誌の出版者に集中してきたのだが、同様の議論は、営利非営利を問わず、学術的な単行書の電子出版に対してもあてはめることができる。 ナショナル・アカデミー・プレス61他は単行書のディジタル版への無料アクセスを提供することが、実際には印刷版の売り上げを増やすのに役立つことを証明した。 他の大学出版局も、著者の機関のリポジトリを通して単行書の電子版を入手できるようにすることを認めることにより、同じことが真実だということを発見するかもしれない。実際、ある大学出版局の局長は、機関リポジトリを商業的マーケットからオープン・アクセスの「アイディアのマーケット」モデルへのシフトにおける論理的構成要素として支持した。62 このモデルはすべての大学出版局が機関リポジトリの増大の中で必ずしも生き残れるわけではないということを認めるもので、大学は、論理的に考えて、伝統的な大学出版局よりもリポジトリの方が学術コミュニケーションにおいてより効率的な投資だと結論づけるかもしれないのである。
政府機関その他の補助金団体
学術研究への政府および私的な慈善基金の、とりわけ科学への、資金提供の度合いを考えれば、そうした補助金団体は科学研究成果のより広い普及に当然関心がある。63 この広い普及の達成を政府や私的補助金団体が助けるためのメカニズムがいくつかある。
政府や基金の研究補助金は、オープン・アクセスのビジネスモデルを支援するため、著者のページ・チャージその他の入力側の料金に対する補助を含めるよう明記することができると提案されてきた。そうした規定は、主に著者のページチャージが一般的な自然科学諸分野において、当該分野における変化を促す助けとなるだろう。明らかに、そうした補助金は入力側モデルが自費出版の烙印を押されているような分野では効果が薄いだろう。それでも、時がたつにつれ、こうした抵抗も克服されるだろう。
より重要なことだが、政府機関や基金は、補助金を受けた研究者が研究成果を、最大限の普及達成のため、オープン・アクセスの場に供することを要求する言葉を補助金規定に盛り込むようになるかもしれない。64 そうした規定は、実際、著者が出版社等に著作権を譲渡したり独占的なライセンス供与を行ったりするのを防ぐことになるだろう。個人レベルでは、研究成果を評価の高い学術雑誌に発表したいと望む研究者は、著作権を譲渡し、かつ、あるいは、出版社によって決められた制限の多い出版条件を受け入れる他に選択の余地がないことがしばしばである。しかしながら、政府あるいは私的な基金によって援助された科学研究の量を考えれば、補助金提供者がオープン・アクセスを要求することは、セルフ・アーカイビングの必然性を受け入れ、著者との標準的な契約をそうした現実に合わせて修正することを出版社に受け入れさせる力となり得るだろう。
機関リポジトリのコスト
機関リポジトリ実現のプロジェクトはこれまで範囲もさまざまで、技術的な実施方法も多様だった。65 そうした異種の経験が普遍的な経済モデルを作り上げ、新しい機関リポジトリの開発あるいは運営の予算を見積もるのを困難にしている。開発および運営双方のコストは、その機関のリポジトリ実現方法および予算執行方法の性質と度合いによってひどく違ってくる可能性がある。開発コストは実現された技術的インフラの性質、内部で引き受けた開発の度合い、その他の変数に依存する。ある機関の運営予算に与える影響もまた、補助的な技術サポートに関する多くの方針決定、それに機関内部の資源およびコストの割り振り方法にも依存する。実際上の話、開発および運営どちらのコストも、事実上追加コストなし(資源を再配分する機関)から何十万ドル(追加のシステムやスタッフ資源が必要な機関)までもの幅があり得るのであ� ��。
範囲にかかわりなく、すべての機関リポジトリのプロジェクトがこれまでに観察してきたのは、リポジトリの方針、情報内容管理、教員のマーケティングといった問題に取り組むために要する労力と組織的なコストに比べれば、技術的な実現のための労力は小さなものだということである。これは以下のような仕事を含んでいる。
- 情報内容受入方針の策定
- どういうメタデータを蓄積・提示するかの決定
- ディジタル文書識別子(DOI)の作成
- 作品を無制限に配布するための著者の許可とライセンス契約の綿密な作成
- 長期のアーカイビングと適切なプレゼンテーションに適した文書作成および入力のガイドライン策定
- 情報内容提出ソフトウェアの使い方に関するスタッフや著者の訓練
- 文書提出要領の作成
- 供託者になりそうな人々へのリポジトリの概念のマーケティング 66
比較的低額の開発・運営コストであれば、多くの機関が自前の資金でのリポジトリ運営を選択し、図書館の運営予算から追加の支出をまかなうことだろう。より大きな機関の図書館は、より野心的な実施・運営計画を立て、当該機関あるいは外部資金源から追加予算獲得をねらうかもしれない。
アーカイブのコスト
長期保存のコストは、どんなディジタル・コレクションにとっても、まだ決定的な結論が出ていない。リポジトリを実施する機関は、メディア・フォーマット変換および、あるいは、移行に関する将来的なコストを、条件によって生じる支出として扱うことに決定するかもしれない。あるいはその代わりに、アーカイビング・ディジタル保存機能をサードパーティに外注することを選ぶかもしれない。67 確立された標準や測定法がない状態で、そうした条件付きの資金あるいは予備会計のコスト目標を設定するのは困難ではあるが、機関リポジトリの予算の中にそうした見積もりを立てることは、項目を立てるだけにすぎないにしても重要である。
結論
以上、現在のモデルの機能障害の多くに立ち向かうことができる、進化しつつある、非集中的な学術出版構造に対して、機関リポジトリが行うことができる寄与について、また親機関で行われている仕事の認知度を高める上での機関リポジトリの潜在的役割について述べた。また、機関リポジトリが主要な学術コミュニケーション関係者に加えるであろう変化も、そうした変化を正当なものとする利益の概要を示しつつ探った。機関リポジトリが既存の出版モデルに対して当面補完的役割を果たす一方で、やがて発展するであろう新しい非集中型出版モデルの出現を促すことができるということを見てきた。この結果は研究者、大学図書館員、そして機関の管理職たちの個人的および集団的な関心を増大させることだろう。
機関 リポジトリは教員主導のセルフ・アーカイビングの試み、伝統的でいまだに支配的な学術雑誌出版システムの独占が及ぼす影響に対する図書館の不満、そしてディジタルのネットワークおよび出版技術が得られることの論理的収束点を示している。現在、機会はさまざまな形で表面化している。
- 姿勢として――機関リポジトリは、研究成果をオンラインで見られるようにするという広まりつつある草の根的な教員の慣例を足場としており、これは個人のWebサイト上に置かれることが最も多いが、学部サイトや専門分野のリポジトリ上にも置かれる。これは自分たちの仕事のより広い公開、そしてアクセス、への欲求を示している。広範な教員主導のオープン・アクセスの出版イニシアティブの実用的な限界がこれまでのところどのようなものであれ、学術出版と知的所有権の問題に対する教員の意識が高まっていることは否定できない。大学図書館はこの意識の形成に、そうした変化の実際のインパクトを示すアウトリーチ・プログラムやリポジトリ・イニシアティブを通して、決定的な役割を果たすことができる。基本的な� �度の変化は教員たち自身から来なければならないが、図書館は変化に影響を与える論理上の機関触媒を提供する。
- 経済的に――大学図書館における学術雑誌のコストの負担は十分立証されている。機関の事情や可能な実現方法の多様性が機関リポジトリの開発と運用のコストを見積もるのを困難にしている一方で、これまでの証拠が示唆しているのは、必要な資源は、図書館が今苦しんでおり、ほとんどコントロールできない雑誌のコストのほんの一部に過ぎないだろうということである。
- 技術的に――電子出版技術、拡張を続けるグローバル・ネットワーク、そして相互運用を可能にするプロトコルとメタデータ標準が合体し、今現在実現可能な実用的な技術的解決策を提供している。そうした技術と標準は発展し続ける――おそらく永遠に――であろうが、すでに十分確立しており、ただちに行動することが可能である。
これらの互いに関連する要素の収束は、機関リポジトリが学術機関およびそれを構成する教員、図書館員、管理職員などから真剣かつ即座に考慮されるに値することを示している。
機関リポジトリは既存の学術雑誌システムに内在する体系的な問題に対する一つの戦略的な答を提供する。――しかもその答はただちに適用され、大学およびその教員にとっては短期的なものも継続中のものも含めて利益を得ることができ、長期にわたる学術コミュニケーションの変革を押し進めることができるのである。たぶん最も重要なのは、これが現在の雑誌出版システムの明白な問題に取り組むための強力な手段を大学に提供することで、学術雑誌出版社が自分たちの利益に反するとみなしている根本的な変化を達成するのに彼らに頼らなくてもいいということなのである。
付録:現在の機関リポジトリのイニシアティブ
多くの大学が機関リポジトリを実際に作るかどうか、あるいはどのように作るか模索している中で、積極的にリポジトリを設置し運用している機関やコンソーシアムの数は増えている。これらのイニシアティブによって得られた実際的経験――組織に関するもの、技術的なもの、法的なもの――は他の機関にとって有益なものとなるに違いなく、いくつかのプロジェクトが開発している技術的インフラは他の機関によるリポジトリ実現のスピードを上げるターンキー・システム(訳注:ややこしい初期設定が不要な導入してすぐ動くシステム)を提供するだろう。従って、われわれは以下にこうしたプロジェクトのいくつかを簡単に概観してみる。68
ARNO
オランダ学術研究オンライン(Academic Research in the Netherlands Online: ARNO)プロジェクトは、2000年9月に発足し、メンバー機関の学術的出力(研究レポート、プレプリント、学位論文、そして正規の学術雑誌に発表された論文を含む)を保存するための大学ディジタル・アーカイブ・サーバのデザインおよび実現を目指している。このプロジェクトの最終目標はOAIの相互運用標準により自由にアクセス可能なリポジトリを作ることである。このプロジェクトはトウェンテ大学、アムステルダム大学、ティルブルク大学の図書館スタッフによって実行されている。
個々のプロジェクトの目標には次のようなものが含まれている。
- 文書サーバを国際分散ディジタル・アーカイブおよびオランダ全国情報インフラストラクチャにつなげる。
- 学術出版社の生産プロセスと結合して査読のための優良な基盤を提供するインフラの開発。
- ディジタル学習環境とシームレスにつながる。
ARNOのソフトウェアは、完成したあかつきには、オープン・ソース・ライセンシングによって入手可能となる。69
カリフォルニア電子図書館eスカラーシップ・リポジトリ
カリフォルニア電子図書館(California Digital Library: CDL)eスカラーシップ・リポジトリは、2002年4月に発表され、広い概念の電子図書館と機関リポジトリとの間の連続体を例示する。CDLは、カリフォルニア大学教員の研究成果やワーキング・ペーパーを広めるための、ウェブ・サイトおよび一連のディジタル支援サービスである、eスカラーシップ・リポジトリを立ち上げた。CDLサービスはリポジトリの情報内容共有のグローバル・ネットワークに参加するため、OAIメタデータ取得プロトコルを採用した。
CDLイニシアティブは教員の研究成果をディジタル・フォーマットで蓄積・配布するための一連のディジタル・サービスを含む。CDLシステムはウェブ・ベースのbepress(業者名)のシステムで、論文の提出、処理、配布を管理する。さらにこのシステムは、特定の関心分野に新しい情報内容が入ったら利用者に知らせる、トピックによるアラート・サービスもサポートしている。70
DSpace
DSpaceは、MIT図書館とヒューレット・パッカード社の共同プロジェクトで、毎年MITの研究者たちにより生み出される相当量の論文その他の研究資料を保存するための、安定した長期的なディジタル・リポジトリを作り上げている。注目すべきは、このシステムを採用する機関リポジトリの連合を支援することができるリポジトリ・システム構築をも目指していることである。この目的を支援するため、DSpaceプロジェクトはアクセス・コントロール、権利管理、バージョニング、検索、教員の受容、コミュニティのフィードバック、そして柔軟な出版機能などを含む関連事項を調査している。機関リポジトリ固有の要求要件に焦点を当てているため、DSpaceの設計や機能では情報内容の入力側のプロセスに特別の注意が払われており、これに� ��って著者の参加が促されるだろう。このシステムはまたサード・パーティのソフトウェアと統合できるよう設計されており、他のコンポーネント(たとえば、編集ワークフロー・システム)と結合して、ターンキーの出版システムになったりすることが可能である。完成したあかつきには、DSpaceのコードはオープン・ソースとして公開される。71
機関リポジトリのE-print導入
いくつかの機関はe-printsセルフ・アーカイビング・ソフトウェアを機関リポジトリ実現のために適用した。サウザンプトン大学で開発され、無料のe-prints.orgセフル・アーカイビング・ソフトウェアは、現在、機関プレプリント・アーカイブを運用するべく構成されている。一般バージョンのe-printsはOAIメタデータ取得プロトコルとフルに相互運用可能である。72
e-printsを導入した大学には、カリフォルニア工科大学、ノッチンガム大学、73 グラスゴー大学、74 オーストラリア国立大学75などが含まれる。 これらのプログラムすべての参加者たちが自分たちの経験を語っており、OAI準拠のe-printsを導入しようと考えている他機関にとって有益な実用的識見を提供してくれる。76
オハイオ州立大学の知識バンク
オハイオ州立大学の知識バンクは、より幅広いディジタル情報源をサービスしつつ、機関リポジトリの目的に取り組んでいるプロジェクトのもう一つの例である。大学の遠隔学習・継続教育委員会から生まれ育ち、知識バンクは、オハイオ州立大構成員によって創造されたものであれそうでないものであれ、オハイオ州立大コミュニティに入手可能なディジタル資産と情報サービスのすべてを含める計画である。このプロジェクトは開発の初期段階にとどまっているが、包括的な電子図書館プログラムに関心を抱く機関にとって役立つ例となろう。77
ユトレヒト大学
ユトレヒト大学の機関リポジトリ、Dispute( 現在デモ・サイトがアクセス可能で、リポジトリに統合されることになるプロジェクトのさまざまなコンポーネントが説明されている。 この中には、あらゆるタイプのユトレヒト大学の出版物のサブセットを収録した小規模(およそ800のフルテキスト論文)だがフルに利用可能なリポジトリ、大学の研究所の一つによるサンプル・リポジトリ、そしてオンライン学位論文のサンプル・リポジトリが含まれている。このプロジェクトはまた教員の個人ホームページ・プロジェクトを含んでおり、図書館ではこれによって教員による自分の研究成果のオンライン掲載への参加が促進されることを期待している。ユトレヒト・リポジトリはOAI準拠である。
注
1 機関リポジトリの実運用に関する技術的・運用的な詳細は近く発表されるSPARCの手引き文書で取り扱われる。
2 これは個々の機関とコンソーシアムや機関横断的なイニシアティブの両方を含む。
3 機関リポジトリはグローバルな文脈において動く。この文書で示されたいくつかの特性は米国中心のものかもしれないが、議論されている基本的問題は世界的に通用する。
4 Evans and Wurster(1997)およびArms(2000)参照。
5 Wyly(1998)およびCrane(2001)参照。
6 Roosendaal and Geurts(1998)参照。
7 価値の連鎖は、ある特定の市場の需要を満たすために、製品あるいはサービスをデザイン、生産、配達するために結びついた活動の集合である。
8 Van de Sompel(2000)およびArms(2000)参照。
9 Evans and Wurster(1997)は、変化する情報の経済学が、この経済の多くの領域で、どのように既存の価値の連鎖を浸食しているかを記述しており、John Smith(1991)、Herbert Van de Sompel(2000)およびPaul Gisparg(2001)は同じ論理を学術コミュニケーションに適用し、学術出版は印刷出版のディジタル版を超えてグローバルで相互運用可能なネットワークという新しいパラダイムへと移行する必要があると論じている。
10 いくつかの商業出版社が享受している、高価格とフランチャイズてこ入れ(訳注:独占販売権強化の意か?)に由来する高い利益率は、学術出版の価値連鎖の解体を加速した。事業効率の改善とともに価格上昇によって支えられた、そうした利益率がなければ、大学の利害関係者が代替手段を探す誘因はかなり低かったことだろう。同様に、見返りに比した場合の市場参画への機会費用と伝統的な障壁が、以前は、営利であれ非営利であれ、他の人々の参加意欲を失わせていた。
11 Harnad(1995)、J. Smith(1999)およびVan de Sompel(1999)参照。 出版プロセスから査読を切り離すことに関しては、Phelps(1998)参照。
12 Van de Sompel(2000)参照
13 詳細で特殊なメタデータはますます高価になっている。 低レベルの記入を許すため、Open Archives Initiative(OAI)では最低の共通基準を示すメタデータのコアセットを支援している。 これは参加への障壁を低くし、詳細なメタデータのタグ付けに費用をかけることが許されないような寿命の短い資料のようなものも取り込みながら、情報検索に価値を付け加えるのである。 Lagoze and Van Sompel(2001)およびLynch(2001)参照。
14 この文脈での「オープンアーカイブ」は少し説明を要する。多くのOAI支持者が学術情報への無料アクセスを主張してはいるのだが、OAI自身は「オープン」を機械の相互運用性を示すものとして使っており、無料あるいは無制限のアクセスという意味は含まれていない。さらに、OAIにとって、「アーカイブ」はリポジトリの同義語として使われていて、必ずしもプロのアーキビストが使うような意味でのディジタル保存アーカイブを示しているわけではない。
15 ライセンスや著作権の同意書や声明書はしばしば「セルフアーカイビング」という言葉を、著者が自分の研究を、雑誌での発表に先立ってあるいは後で、公に入手できるようにする権利を保持するか否かを示すものとして用いている。
16 Stevan Harnadはすべての研究をオープン・アクセスで入手できるようにしつつ出版社の版権を尊重するシステムを唱えた。Harnad(1999)(2001)参照。
17 <
18 <
19 <
20 NASA Technical Reports Server(
21 National Computer Science technical Reference Library. <
22 さらに、特定専門領域サーバはしばしば個人あるいは小さなボランティア・グループによって維持されており、機関のスポンサーが寄与するような安定性を持たないおそれがある。
23 ディジタルアクセスと保存に関する諸問題の簡潔な要約については、Teper and Kraemer(2002)およびConway(1996)を参照のこと。
24 オーバーレイ・ジャーナルの概念はJ. Smith(1999)(彼はこれを「主題焦点"Subject Focal Points"」と呼ぶ)とGinsparg(2000)によって最も広範に探求されている。
25 たとえば、出版社は自分たちが印刷物で出版している――あるいは出版を計画している――アンソロジーのためにそうしたサービスを提供するかもしれない。 個々の事例による証拠が増え続けているのだが、そうした本を電子形態で無料で入手できるようにすることは、印刷本の売り上げを食うよりもむしろ増加させるのである。
26 Annals of Mathematicsはプリンストン大学と先端学術研究所(Institute for Advanced Study)の協力で隔月間で発行されている。 <
27 Hitchcock and Hall(2001)および< 参照。
28 <
29 Roosendaal and Guerts(1998)。
30 Van de Sompel(2001)参照。
31 これらのアラートサービスはまた、利用者の指定するパラメータに従って、オープン・アクセスと有料出版物の両方あるいは片方だけに向けることができるだろう。
32 Van de Sompel and Hochstenbach(1999)、Van de Sompel and Beit-Arie(2001)、Lawrence, Giles, and Bollacker(1999), pp.67-71、Cameron(1997)参照。
33 Hitchcock et al.(2000)参照。
34 たとえば、オハイオ州立大学が提案する知識バンク(Knowledge Bank)。<
35 実際、もし機関がそういう選択をすれば、その機関が保持する知的所有財産、たとえば機関に寄贈されたり伝来したりするディジタル資産を、たとえその情報内容が実際には機関で創り出されたものではなかった場合でも、含めるというふうにリポジトリを定義することもできるだろう。そうしたディジタル知的所有権管理団体(IPC)はこの声明書が扱う範囲外である。IPCについては、Bearman(2000)参照。
36 いくつかの政府は、電子学位論文(ETD)を学生の学問的成果の永続的な記録として保存するよう要求しており、従って、ETDはそうした政府の保存計画においては永久保存記録に分類されている。 機関リポジトリはこうした計画の順守を支援できる。Teper and Kraemer(2002), p. 65参照。
37 既存の雑誌システムでは、登録と認証を結びつけており、登録が最も普通に取り消されるのは論文の出版を拒否することによって(すなわち、認証を否定することによって)である。
38 たとえば、<
39 Teper and Kraemer(2002), p. 64参照。
40 個人的なコミュニケーション、Herbert Van de Sompel、2002年6月21日。
41 Shibboleth Project (< はこの組織横断的なアクセス・コントロールに従うWeb情報資源の共有に取り組んでおり、構成、方針の体系、そして実用的技術を開発している。
42 ある学術コミュニティが機関リポジトリをどのように使うのだろうかということの例については、MITのDSpaceプロジェクトによってなされた利用研究参照。<
43 カリフォルニア工科大学Eric Van de Veldeからの電子メール、2002年3月22日。
44 Pinfield, Gardner, and MacColl(2002)およびDspace(<
45 Pinfield, Gardner, and MacColl(2002)参照。
46 そうした領域の一つの詳細な説明についてはPinfield(2001)参照。
47 以下でいくつかの機関提出著作へのアクセス制限が可能であることの必要性を論じる。 しかしながら、そうした仕組みが整っていてさえ、このような変化に対する教員の抵抗は激しいものになる可能性がある。
48 Pinfield, Gardner, and MacColl(2002)参照。 この論文は、ノッティンガム大学とエディンバラ大学のe-プリント・アーカイブの経験を反映し、教員の参加を促すための実際的なアドバイスを提供している。 機関リポジトリとセルフアーカイビングに対する教員の姿勢についてのさらなる情報は、Bentum, Brandsma, Place, and Roes(2001)参照。
49 これは研究論文の商業的価値は出版後のある時点で急激に低下するという仮定に基づいている。
50 Pinfield, Gardner, and MacColl(2002)参照。
51 Lawrence(2001), p.521参照。Lawrenceが調査したコンピュータ・サイエンスの論文の場合、オンライン論文はオフライン論文の4.5倍引用されていた。 Steve Lawrence "Free online availability substantially increases a paper's impact" Nature: Web Debates も参照。 <
52 CDLのeScholarshipという学部リポジトリは、リポジトリの導入直後、そこに発表された研究成果の引用が急増し、この存在感の増大を証明した。 (Roy Tennant, 2002年6月16日のSPARC-ACRLフォーラムにおけるプレゼンテーション。) オープン・アクセスは、同一研究領域内の他の学者だけでなく、メディア、従ってより広く一般大衆にも研究成果を広く認知させることになるだろう。 ポピュラーなメディアの手に科学研究が渡る危険性についての意見がどうであれ、そうしたメディアの注目が科学的発見や研究に対する一般大衆の認知度を上げることになるのは明白なように思われる。 さらに、メディアの興味の増大が典型的にもたらすこととして、研究に寄与した研究者の公的イメージおよび名声を高める。
53 オープン・サイテーション・プロジェクトのようなサービスを開発することのねらいは、高度な参照リンクを用意し、著者に自分の著作の引用・インパクト分析を提供することである。 Hitchcock et al.(2000)および<
54 McMillan, Fox, and Eaton(1999)およびNetworked Digital Library of These and Dissertations: <
55 Tenopir and King(2000)、Evan and Wurster(1997)、Arms(2000a)参照。
56 Evans and Wurster(1997)およびHitchcock et al.(2000)参照。
57 TenopirとKingは、高い固定費用のため、学術雑誌講読者あたりのコストと価格は、ひとたび購読者が2,500人以下に落ち込むと、ほとんど幾何級数的に増加すると主張している。 Tenopir and King(2000), p. 36.
58 非営利の出版者がオープン・アクセス出版に適応するのを助けるために、Open Society Instituteイニシアティブが進行中で、学術雑誌を出版する学会の現実の財政的不安に取り組むためのビジネスプランを作り出している。 <
59 たとえば、Berin(2002)参照。
60 たとえば、プレプリント・アーカイブが最も顕著な役割を演じている領域である高エネルギー物理学では、学会の雑誌出版部は電子版プレプリントから財政的な悪影響を受けていないように見える。 実際、少なくとも一つの著名な雑誌に関しては、事情は正反対のようである。 米国物理学会の高エネルギー物理学雑誌の経験に関するA. Smithの報告(1999)を参照のこと。 一貫した出版前発表の伝統がない分野では、オープン・アクセスが学術雑誌に与える脅威はさらに小さいという予想も成り立ち得る。
61 <
62 Litchfield(2002)参照。
63 いくつかの研究領域に関する最近の政府のセキュリティへの懸念にもかかわらず、である。
64 カンザス大学教務部長David Schlenburgerは、1998年、国立電子論文リポジトリ(NEAR)を提案した時、こうした示唆を行っている。<
65 「付録:現在の先導的機関リポジトリ」参照。
66 カリフォルニア工科大学のEric van de Veldeからの電子メール、2002年3月22日、およびマサチューセッツ工科大学の MacKenzie Smithからの個人的コミュニケーション、2002年6月16日。
67 RLG(2002)参照。
68 われわれがここで扱うイニシアティブは、実際に働くリポジトリを実現しようとするものであり、従って、最終的にリポジトリを支援することになるであろう関連する電子図書館インフラのイニシアティブは含めていない。そうしたイニシアティブに含まれるものとして、ヴァージニア大学とコーネル大学のFEDORAプロジェクト、ニュージーランド国立図書館のGreenstone電子図書館ソフトウェア、オランダのRoquade電子出版支援プロジェクト( SPARC Guide to Institutional Repositoriesで扱われている。
69 Bentum, Brandsma, Place and Roes(2001)参照。
70 <
71 <
72 <
73 <
74 <
75 <
76 Pinfield, Gardner, and MacColl(2002); Rusbridge and Nixon(2001)参照。
77 <
(以下は原文のまま)
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ACKNOWLEDGEMENTS
SPARC and the author wish to thank the many people who contributed to this paper with their comments and suggestions. In particular, we would like to thank Herbert Van de Sompel for his thorough and thoughtful critique and for insights too numerous to cite individually. We would also like to thank Julia Blixrud, Joe Branin, Kim Braun, Catherine Candee and a number of her colleagues at the California Digital Library, Mary Case, Fred Friend, Howard Goldstein, Jean-Claude Guedon, Richard Lucier, Stephen Pinfield, Tom Sanville, MacKenzie Smith, Colin Steele, and Eric Van de Velde. Invaluable guidance also was provided by the members of the SPARC and SPARC Europe Steering Committees, which include Cynthia Archer, Raymond B駻ard, Karyle Butcher, Raf Dekeyser, Ray English, Ken Frazier, Sir Brian Follett, Sarah Michalak, Elmar Mittler, Jim Neal, Bas Savenije, and Mette Stockmarr. This paper-and the readers thereof-have benefited from the generosity of all those who provided feedback. They have saved us from errors of both omission and of fact, and we have tried to incorporate their comments wherever possible. Any errors that remain, whether of fact or interpretation, are the sole responsibility of SPARC and the author.
ABOUT THE AUTHOR
Raym Crow is a Senior Consultant at SPARC (the Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition) and Managing Partner of Chain Bridge Group, an independent publishing consultant and SPARC Consulting Group affiliate (www.chainbridgegroup.com). He has almost 20 years' experience in academic publishing and business information services, specializing in strategic business planning, product management, and market development. He holds a B.A. from Whittier College, and an M.A. and PhD from the University of Pennsylvania.
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Japanese Translation Last Updated: 2004-9-27
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