●O市のGさん(30歳・母親)から、満1歳4か月に
なる子ども(男児)の、分離不安についての相談が
あった。
掲載許可をもらえたので、まず、それをそのまま
紹介させてもらう。
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【Gさんより、はやし浩司へ】
突然のご相談で失礼いたします。(メルマガ等は一切購読しない方針のため、申し訳ございま
せん。ホームページは普段よりよく拝見し、子育てに際し何より参考にさせていただいておりま
す。)
私共の長男(1歳4ヶ月)の分離不安のことで悩んでおります。
我が家は長男が誕生して以来、私が在宅勤務という形態での、一応の共働き家庭です。この4
月からは出勤を視野に入れ、長男を保育園に預けることとなりました。それまでは実は私の仕
事の都合上、私の実家で母子が生活し、主人は週に何度か通ってくる生活が1年以上続いて
いました。ですので、長男にとっては現在の自宅は何度か訪れたことのある家に引越しをした
ような状況です。そこへ加え、初めての集団保育ということになりました。
先週(4月第2週)から、午前のみの慣らし保育がはじまりました。案の定、本人の受けたショッ
クは相当なものだったようです。毎朝泣くのはもちろんですが、まもなく、家の中でもちょっと私
の姿が見えないと、たとえ私が声をかけながらでも、火がついたように泣き出すようになりまし
た。
それくらいなら致し方ないかとも思うのですが、しだいに寝てもさめても常に情緒不安定のよう
な状態が続き、よく寝る子だったのに近頃は昼夜を問わず睡眠中も突然泣き出して収まらな
いことが増えました。
つい先々週までは天真爛漫でやんちゃだけがとりえのような子供だったのに、人への警戒心
が顕著になり、笑顔が減り、すぐに私に抱きついてくるようになりました。私に対しても、これま
では何かできると得意げに笑顔でアピールしてきたのに、それも明らかに減ってしまいました。
実は風邪をもらってきてしまったこともあり、今週頭から保育園は欠席し、母子密着していまし
た。すると多少は元気を取り戻した気もするのですが、やはり以前の彼とは違ってしまっていま
す。主人は「それは一過性。誰しも経験することで、それがたとえ半年先でも同じこと。慣れる
もの。だったら今、ほかの子と足並みそろえさせてやるのが一番。欠席させたら彼がかわいそ
う」と考えているようですが、私にはこのまま彼の何か大事な部分が失われてしまうようで悲し
く、不安がつのります。
はやし先生の「子どもを考える」等、いくつか分離不安について触れた記事を拝読し、ますます
悩んでいます。ことの次第によっては、私の仕事を見直して保育園は見合わせもいいと思って
いますが、取り越し苦労でしょうか。またそうしたところで天真爛漫で無邪気だった彼が取り戻
せるのか、アドバイスいただけませんでしょうか。よろしくお願い申し上げます。
Hiroshi Hayashi+++++++++++はやし浩司
【はやし浩司より、Gさんへ】
まず、いくつかの参考となる資料を添付します。
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【参考(1)】
●子どもが分離不安になるとき
●親子のきずなに感動した!?
ある女性週刊誌の子育てコラム欄に、こんな手記が載っていた。日本でもよく知られたコラム
ニストの書いたものだが、いわく、「うちの娘(3歳)をはじめて幼稚園へ連れていったときのこ
と。娘ははげしく泣きじゃくり、私との別れに抵抗した。私はそれを見て、親子の絆の深さに感
動した」と。
そのコラムニストは、ワーワーと泣き叫ぶ子どもを見て、「親子の絆の深さ」に感動したと言うの
だ。とんでもない! ほかにもあれこれ症状が書かれていたが、それはまさしく分離不安の症
状。「別れをつらがって泣く子どもの姿」では、ない。
●分離不安は不安発作
分離不安。親の姿が見えなくなると、発作的に混乱して、泣き叫んだり暴れたりする。大声を
あげて泣き叫ぶタイプ(プラス型)と、思考そのものが混乱状態になり、オドオドするタイプ(マイ
ナス型)に分けて考える。
似たようなタイプの子どもに、単独では行動ができない子ども(孤立恐怖)もいるが、それはと
もかくも、分離不安の子どもは多い。4〜6歳児についていうなら、15〜20人に1人くらいの割
合で経験する。
親が子どもの見える範囲内にいるうちは、静かに落ちついている。が、親の姿が見えなくなっ
たとたん、ギャーッと、ものすごい声をはりあげて、そのあとを追いかけたりする。
●過去に何らかの事件
原因は……、というより、分離不安の子どもをみていくと、必ずといってよいほど、そのきっか
けとなった事件が、過去にあるのがわかる。
はげしい家庭内騒動、離婚騒動など。母親が病気で入院したことや、置き去り、迷子を経験し
て、分離不安になった子どももいる。さらには育児拒否、冷淡、無視、親の暴力、下の子ども
が生まれたことが引き金となった例もある。
子どもの側からみて、「捨てられるのでは……」という被害妄想が、分離不安の原因と考えると
わかりやすい。無意識下で起こる現象であるため、叱ったりしても意味がない。表面的な症状
だけを見て、「集団生活になれていないため」とか、「わがまま」とか考える人もいるが、無理を
すればかえって症状をこじらせてしまう。
いや、実際には無理に引き離せば混乱状態になるものの、しばらくするとやがて静かに収まる
ことが多い。しかしそれで分離不安がなおるのではない。「もぐる」のである。一度キズついた
心は、そんなに簡単になおらない。この分離不安についても、そのつど繰り返し症状が表れ
る。
●鉄則は無理をしない
こうした症状が出てきたら、鉄則はただ一つ。無理をしない。その場ではやさしくていねいに
説得を繰り返す。まさに根気との勝負ということになるが、これが難しい。現場で、そういう親子
を観察すると、たいてい親のほうが短気で、顔をしかめて子どもを叱ったり、怒ったりしている
のがわかる。「いいかげんにしなさい」「私はもう行きますからね!」と。
こういう親子のリズムの乱れが、症状を悪化させる。子どもはますます強く被害妄想をもつよう
になる。分離不安を神経症の一つに分類している学者も多い(牧田清志氏ほか)。
分離不安は4〜5歳をピークとして、症状は急速に収まっていく。しかしここに書いたように、
一度キズついた心は、簡単にはなおらない。ある母親はこう言った。「今でも、夫の帰宅が予
定より遅くなっただけで、言いようのない不安発作に襲われます」と。姿や形を変えて、おとな
になってからも症状が表れることがある。
(付記)
●分離不安は小児うつ病?
子どもは離乳期に入ると、母親から身体的に分離し始め、父親や周囲の者との心理的つなが
りを求めるようになる。自我の芽生え、自立心、道徳的善悪の意識などがこの時期に始まる。
そしてさらに3歳前後になると、母親から心理的にも分離しようとするが、この時期に、母子の
間に問題があると、この心理的分離がスムーズにいかず、分離不安を起こすと考えられてい
る(クラウスほか)。
小児うつ病の一形態と考える学者も多い。症状がこじれると、慢性的な発熱、情緒不安症状、
さらには神経症による諸症状を示すこともある。
Hiroshi Hayashi++++++++APR.08++++++++++はやし浩司
【参考資料(2)】
子どもの心が不安定になるとき
●情緒が不安定な子ども
子どもの成長は、次の四つをみる。(1)精神の完成度、(2)情緒の安定度、(3)知育の発達
度、それに(4)運動能力。
このうち情緒の安定度は、子どもが肉体的に疲れていると思われるときをみて、判断する。運
動会や遠足のあと、など。そういうときでも、ぐずり、ふさぎ込み、不機嫌、無口(以上、マイナス
型)、あるいは、暴言、暴力、イライラ、激怒(以上、プラス型)がなければ、情緒が安定した子
どもとみる。子どもは、肉体的に疲れたときは、「疲れた」とは言わない。「眠い」と言う。
子どもが「疲れた」というときは、神経的な疲れを疑う。子どもはこの神経的な疲れにたいへん
弱い。それこそ日中、五〜一〇分、神経をつかっただけで、ヘトヘトに疲れてしまう。
●情緒不安とは……?
外部の刺激に左右され、そのたびに精神的に動揺することを情緒不安という。二〜四歳の
第一反抗期、思春期の第二反抗期に、とくに子どもは動揺しやすくなる。
その情緒が不安定な子どもは、神経がたえず緊張状態にあることが知られている。気を許さ
ない、気を抜かない、周囲に気をつかう、他人の目を気にする、よい子ぶるなど。その緊張状
態の中に、不安が入り込むと、その不安を解消しようと、一挙に緊張感が高まり、情緒が不安
定になる。症状が進むと、周囲に溶け込めず、引きこもったり、怠学、不登校を起こしたり(マ
イナス型)、反対に攻撃的、暴力的になり、突発的に興奮して暴れたりする(プラス型)。
表情にだまされてはいけない。柔和な表情をしながら、不安定な子どもはいくらでもいる。この
タイプの子どもは、ささいなことがきっかけで、激変する。母親が、「ピアノのレッスンをしよう
ね」と言っただけで、激怒し、母親に包丁を投げつけた子ども(年長女児)がいた。また集団的
な非行行動をとったり、慢性的な下痢、腹痛、体の不調を訴えることもある。
●原因の多くは異常な体験
原因としては、乳幼児期の何らかの異常な体験が引き金になることが多い。たとえば親自身
の情緒不安のほか、親の放任的態度、無教養で無責任な子育て、神経質な子育て、家庭騒
動、家庭不和、何らかの恐怖体験など。ある子ども(5歳男児)は、たった一度だが、祖父には
げしく叱られたのが原因で、自閉傾向(人と心が通い合わない状態)を示すようになった。また
別の子ども(三歳男児)は、母親が入院している間、祖母に預けられたことが原因で、分離不
安(親の姿が見えないと混乱状態になる)になってしまった。
ふつう子どもの情緒不安は、神経症による症状をともなうことが多い。ここにあげた体の不調
のほか、たとえば夜驚、夢中遊行、かん黙、自閉、吃音(どもり)、髪いじり、指しゃぶり、チッ
ク、爪かみ、物かみ、疑惑症(臭いかぎ、手洗いぐせ)、かみつき、歯ぎしり、強迫傾向、潔癖
症、嫌悪症、対人恐怖症、虚言、収集癖、無関心、無感動、緩慢行動、夜尿症、頻尿症など。
●原因は、家庭に!
子どもの情緒が不安定になると、たいていの親は原因さがしを、外の世界に求める。しかし
まず反省すべきは、家庭である。強度の過干渉(子どもにガミガミと押しつける)、過関心(子ど
もの側からみて神経質で、気が抜けない環境)、家庭不和(不安定な家庭環境、愛情不足、家
庭崩壊、暴力、虐待)、威圧的な家庭環境など。夫婦喧嘩もある一定のワク内でなされている
なら、子どもにはそれほど大きな影響を与えない。が、そのワクを越えると、大きな影響を与え
る。子どもは愛情の変化には、とくに敏感に反応する。
子どもが小学生になったら、家庭は、「体を休め、疲れた心をいやす、いこいの場」でなけれ
ばならない。アメリカの随筆家のソロー(一八一七〜六二)も、『ビロードのクッションの上より、
カボチャの頭』と書いている。人というのは、高価なビロードのクッションの上に座るよりも、カボ
チャの頭の上に座ったほうが気が休まるという意味だが、多くの母親にはそれがわからない。
わからないまま、家庭を「しつけの場」と位置づける。
学校という「しごきの場」で、いいかげん疲れてきた子どもに対して、家の中でも「勉強しなさい」
と子どもを追いまくる。「宿題は終わったの」「テストは何点だったの」「こんなことでは、いい高
校へ入れない」と。これでは子どもの心は休まらない。
●子どもの情緒を安定させるために